「資本家のジレンマ」を解消する処方箋-“成長しない”イノベーションに気をつけろ!

 『イノベーションのジレンマ』で知られるクレイトン・クリステンセン教授が来日講演で語ったのは3つの理論だった。その3つの理論とは「破壊的イノベーション理論」、「Job-to-be-done(ジョブ)理論」そして「資本家のジレンマ」についてである。資本家のジレンマと成長の理論は、教授が近年もっとも研究を進めた領域で、国家の経済政策に直結する内容だが、実は企業経営や個人レベルにも応用できる考え方だ。

[公開日]

[著] 津田 真吾

[タグ] マーケティング jobs to be done 事業開発

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

企業の成長を阻害するイノベーションがある

 企業の成長につながらないイノベーションも存在する。
 日本の家電メーカーや半導体メーカーが「技術革新」という名の下、性能や容量を競っていたにもかかわらず、業界全体が疲弊したことは記憶に新しい。実は私がいたハードディスクの業界も同じ構造になっていたことはクリステンセン教授が『イノベーションのジレンマ』で書いたとおりだ。業界が若いころは活況で、毎年激しい開発競争が行われ、同僚も増え続けた。スクープを狙う新聞記者のように他社を出し抜いて、1日でも早く次世代のハードディスクを出荷することが市場で勝つための大条件だったのだ。新聞スクープ競争のように勝者は常に入れ替わるものの、業界全体の構造は変わらない。業界が成熟すると、全体の成長が鈍り、競合企業は統廃合されていく。逆に成長したがゆえに、フラッシュメモリーのような破壊的技術が登場すると、製品の性能は向上したとしても市場は縮小する。

 これが、前々回の記事に書かせていただいた「持続的イノベーション」である。継続的な進歩も、買い替え需要であったり、同業他社の顧客を奪ったり取られたり、という勝負である。長期的に続くことで「破壊的イノベーション」の隙を作ってしまう。「持続的イノベーション」そのものは成長を生まない。

 もう一つ、成長しないイノベーションがある。それは「効率化イノベーション」である。これはオペレーションのコストを下げる工夫が当てはまる。作業の自動化や、ムダな工程を省くことによるコストダウンは「効率化イノベーション」である。ITシステムに投資し、社内の会計管理が効率化しても、利益は増えるが、売上が増えるわけではない。損益計算書のトップライン(売上)が横ばいということは、顧客が企業活動に支払った価値の総額も増えていない。ところが、ボトムライン(利益)は資本家が儲かる分として増える。「効率化イノベーション」は企業の成長は生まないが資本は増える。

「持続的イノベーション」と「効率的イノベーション」

破壊的イノベーションは“ただの人”を顧客にする

 破壊的イノベーションは、新市場を作り出す。アメリカ市場に乗り込んだ初期の日本者は、車を買うほどの収入がない大学生を顧客化した。LCCは海外旅行に行けなかった人を顧客化した。インクジェットプリンターはそれまで存在していなかった家庭でのプリンター市場を作り出した。MPESAは銀行口座を持っていない人同士での送金を可能にした。「破壊的イノベーション」は価値を創造し、雇用を生み、真の成長を生む。

バックナンバー