著名弁護士が本音ベースで語る日本のM&Aとその課題

佐藤明夫弁護士インタビュー

 「M&Aをもっと身近に」をキャッチコピーとする専門メディア「M&A Online」の協力により、記事転載(再編集)にて、M&Aの注目トピックを紹介する本コーナー。
 M&Aのデューデリジェンス(以下、DD)や契約業務において弁護士の専門力は心強い存在だ。多数の大型案件に関わり、M&Aアドバイスで豊富な実績を持つ佐藤総合法律事務所代表である佐藤明夫弁護士が語る、日本のM&Aの本音ベースの課題や対応策を、インタビューにてお聞きした。

[公開日]

[語り手] 佐藤 明夫 [聞] M&A Online編集部 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] 事業開発 企業戦略 M&A PMI DD デューデリジェンス 事業継承

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PMIができないならM&Aをすべきではない

――日本企業によるM&A について、総括的にどのような評価をお持ちですか。

 弁護士としてM&Aの支援をさせていただいている立場にある者として、あまり言ってはならないことかもしれないのですが、日本企業のM&Aについては、一般社会からも評価されるような成功事例はまだまだ少ないと思いますし、むしろ失敗例の方が多いという印象を持っています。

 最大の課題は「PMI(Post Merger Integrationの略で、M&A成立後の統合プロセス)」にあると考えています。

 私は、本業一筋にやってきた会社が方針転換をしてM&Aを積極的に行うことや、自分の本業とはシナジーが少ないノンコアな事業を買収することも、必ずしも否定すべきではないと考えています。極端な話、「買収資金を2、3年で回収できるキャッシュフローを生み出している会社だから」という理由で買ったとしても、それを頭ごなしに「間違っている」とまで言う必要はないと思っています。

 ただ、どのような理由でM&Aを行ったにしても、買収先企業が、なぜ安定的な収益を生み出しているのか、そして今後も生み出し続けられるのかについての検証は不可欠です。昨今、M&Aでは、法務、財務のDD(デューデリジェンス)は必ず行われますし、ビジネスDD(M&A対象会社の製造や営業などのビジネスモデルの把握、事業性の評価及びシナジー効果分析・事業統合に関するリスク評価等)を行うことも増えてきていますので、そういう検証は普通に行われるようになってきていると思われがちですが、現在行われている一般的なDDのプロセスにおける分析は、数字、文章化された資料や、ある意味表面的な議論に基づくものにとどまっており、収益力の本当の源泉は何か、社内で人望を集めている者は誰か、社内の風通しはよいのか、社員のモチベーションはどうかといった、企業にとっては実は一番重要で、深みのある点にまでは及びません。

 加えて、会社は「生き物」ですから、買収したあと、買う前に思っていたとおりにしていくためには、買収した会社が「よりよく生きていく」ためのケアが不可欠です。つまり、どのようなケースであっても、M&Aでは、申し上げたような分析をベースに、中長期的な安定性や成長性を確保するためのPMIが不可欠なのですが、日本企業はPMIに対する取り組みが脆弱(ぜいじゃく)で、結局、PMIがうまくいかず、減損処理を強いられるようなケースが多いと感じています。

――PMIがきちっとできていない理由は、どのような点にあるとお考えですか。

 まず申し上げるとすれば、日本企業の経営者において、ビジネスを中長期的に予測し、それに対応していく力が弱いことにあるように思えます。もちろん、日本の多くの企業、特に上場企業は、中期経営計画を策定し、かつ公表しています。ただし、多くの会社の中計は数値計画が中心のものであり、その数値の前提となる事業の分析や、さらにその背景となる社会情勢の変化などについて、「なるほど」と思わせるような記述があるものは少ないように思えます。

 厳しいことを言えば、経営陣は、3年や5年といった、現在から比較的容易に想像できる近未来の、しかも予測なのか目標なのかわかならいような数値を中心とした計画をもって満足するのではなく、大げさに言えば地球規模のあらゆる情勢を取り込むようなマクロの視点に基づいて、10年、20年、あるいは50年といった真に中長期的な時間軸で、自らの事業の将来性や事業ポートフォリオの在り方を構想して、それを現在の経営判断にフィードバックすることが求められているのではないでしょうか。

 「2、3年で投資資金を回収できる会社だから、10年やれば投資資金を上回る収益があるはずだ。だったらいいじゃないか」という判断もあるかとは思います。しかし10年も順調に利益を生み出してくれるビジネスは、そうそうあるものではありません。本当は、買った会社以前に、まず自社の将来予測がきちんとできていないのであれば、買った会社の将来予測などできるはずもないのですが。

 自社の将来予測すら満足にできていない会社が、他の会社の将来予測について非常に甘い認識の元にM&Aをやっていることが多い気がします。買って、一時的には連結収益に貢献をしたが、あっという間にお荷物になってしまうケースも、ずいぶんあります。

佐藤明夫佐藤総合法律事務所 代表 佐藤明夫 弁護士

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