「AIは仕事を奪うか?」という問題を経済学的に考察してみる

第2部 第2回:

 本連載は、筆者井上とAI研究者である理化学研究所の高橋恒一氏とで立ち上げた「人工知能社会論研究会」での、研究会メンバーとの対話で得た知見を集約した内容をお届けする。連載中も、研究会での知見は更新しながら「体系化」を心掛けてお届けする予定だ。第2部として、私が2回にわたり「AIは仕事を奪うのか」「ベーシックインカム」などのテーマを考察する。
 今回は、最近よく議論される「AIは仕事を奪うのか」という問題を経済学的に考察した筆者の見解をお示しする。

[公開日]

[著] 井上 智洋

[タグ] AI・機械学習 ワークスタイル 汎用AI 特化型AI 全脳エミュレーション コネクトーム 全脳アーキテクチャ 労働移動 技術的失業 ベーシックインカム

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「技術的失業」とは何か?

 「先生!僕、会計士になりたいんだけど、どう思いますか?」と学生に聞かれたことがある。私は返答に戸惑った。会計士は消滅する可能性の最も高い知的職業だと言われているからである。

 近頃、「AIが労働者の仕事を奪うか?」といった問題が盛んに論じられている。その中には、これまでの資本主義の歴史において、新しい技術の導入による失業が大きな問題になったことがないので、これからも大丈夫だろうという根拠薄弱な楽観論がある。果たしてそうだろうか?

 私たちは、過去の歴史から得られた知見がそのまま自動的に未来にも当てはめられると考えるべきではないだろう。過去と未来で前提が異なれば、帰結もまた異なってくる。

 新しい技術の導入がもたらす失業は、経済学では「技術的失業」と言われている。例えばそれは、「銀行にATMが導入されて、窓口係が必要なくなり職を失う」とか「Amazonなどのショッピングサイトの普及によって、街角の書店が廃業に追い込まれ従業員が職を失う」といった失業のことである。

 技術的失業は、イギリスで起こった最初の産業革命の頃 (1770~1830年) から経済学者によって多少たりとも議論されてきた。ところが、技術的失業は結局のところ、一時的で局所的な問題に過ぎなかった。それは、失業した労働者が機械にはできない別の業務・職種を担うようになったり、機械化されていない別の産業に「労働移動」したりするからである。

 例えば、産業革命期には、紡績機(糸をつむぐ機械)や紡織機(布を織る機械)などの機械が導入され、手織工の仕事が失われていった。しかし、そういった機械を操作するための工場労働者の需要はむしろ増大し、失業者はそこに吸収されていったのである。

 AI が発達した未来でも同じように、なんらかの職種・業務の増大が失業者を吸収していくだろうか?

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