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テクニウムの自己増殖がもたらす未来(ケヴィン・ケリー『テクニウム』)

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テクニウムの進化がもたらす近未来②(本書より)

4.UNIXカーネルはテクノロジーの世界のゴキブリとなる

 本書によれば、テクニウムの進化はテクノロジーの複雑性を増加させる。しかし、ネジからテレビから飛行機まで、世にあるテクノロジーの全てが今後も複雑性を増すのだろうか。

 本書はいくつかのシナリオを提示しており、その中でも正解とするのは「大部分のテクノロジーは単純もしくはやや単純だが、少数が引き続き大きく複雑化する」という道筋だ。

 本書によれば、テクノロジーもいくつかの層からなる。レンガ、木、ハンマー、電気モーターは生物界の微生物に相当し、これ以上は進化しない。都市や家も同じままだが、その表面には、急速に進化するガジェットやスクリーンが付けられるかもしれない。

 私も本書の予想には賛成だ。「進化は進化の領域を変化させる」「縮小可能領域以外は指数関数的成長をしない」という仮説にも適うし、生命の生態系をアナロジーとする点もおもしろい。本書解説に基づき「UNIXカーネル・ゴキブリ仮説」とでも名付けようか。

現在のコンピュータでつかわれているUNIXのカーネルのようなプログラムのコードが、これから1000年経っても使われている可能性がかなりある(中略)。

それらはきっと2進数を使ったデジタルの細菌やゴキブリのようなもので、単純なテクノロジーはそのままで使えるから生き続けていくのだ。それらはより複雑になる必要がない。

5.テクノロジーの自己増殖が止められなくなる

 テクニウムに最近現れた根本的な力に「自己増殖」があるという。自己増幅が進化の基本的な性質であることは紹介した通りだ。しかしテクニウムはこれまで、自身の進化を人間の手に頼っていた。発明家は起こるべき発明を世に現すパイプ役であり、発明家がいなければテクニウムは進化できなかった。

 ところが近年、テクニウムは人間の手によらずとも自ら自己増殖する力を獲得しつつあるという。本書はその傾向が顕在化する分野として、遺伝子、ロボット、情報、ナノの4つを挙げている。いずれも縮小可能領域のテクノロジーだ。

 本書は次のように指摘する。

 遺伝子テクノロジーは新しい染色体や生命が創ろうとしているが、遺伝子はそもそも突然変異による自己改変を繰り返す。ロボットはロボットを創れるし、情報分野ではすでにコンピュータ・ウィルスが進化を始めている。自己組織化能力をもつナノ・マシンが野生化したら、自然界の狭いニッチで繁殖し、取り除くことはできなくなる。

タイトル分子で構成されたギア(画像:NASA on The Commons
本書はナノ・マシンの暴走「グレイ・グー」には否定的。

 自然界で野生化したナノ・マシンの生態系とかすごく気になる。すでにいくつかのテクノロジーは人間の制御を超えている。本書は「多くの意味で、インターネットは決して止まらないようにデザインされている」と指摘する。止まらなくなったテクニウムはどこに進むのか。

6.テクニウムがヒトから独立する

 指数関数的成長が起きているのはテクノロジーだけではない。本書は人口動態と、エネルギー消費もまた同様に、指数関数的に伸びてきたことを指摘する。ただし人口の増加は21世紀以降、鈍化することがわかっている。もしテクノロジーの進化が人口動態に基づくならば、テクノロジーの進化も止まるのか。

 本書はこの疑問に対して、いくつかの予想を提示している。その中の2つを紹介したい。

  • 人間の知性の数が減っても人工的な知性を何十億の単位で作ることはできる。人工的な知性がアイディアを生み出し続け、それらが人間と同様にアイディアを消費する。それらは人間ではないので、それによる繁栄や進歩は人間のそれとは異なったものになる可能性がある(シナリオ2)
  • 進歩を維持するために、平均的な人間の知性を良くすればいい。集中力は高まり、睡眠時間は短くなり、長寿化し、より多くを創造する(シナリオ3)

 いずれの予測も、テクニウムの進化を促すものが、人工物あるいは「いまよりも進化したヒト」に替わることを示唆している。これらはテクニカル・シンギュラリティの仮説と一致する。

約1万年前に、地球が人類を変える力を、人類が生態系を変える力が上回るという転換点が訪れた。その地点がテクニウムの始まりだった。そして今、テクニウムが人類を変える力が、人類がテクニウムを変える力を上回るという次の転換点を迎えている。ある人はこれを特異点(シンギュラリティー)と呼ぶが、まだ決定的な名前はない。

世代を重ねれば、人間による流行りや経済状況という雑音は打ち消され、本質的な方向性がテクノロジーを導くようになる。

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テクニウムはいま、ヒトから離れようとしている

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弦音 なるよ(ツルネ ナルヨ)

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