「FinTechの衝撃」著者、NRI城田真琴氏に聞く

野村総合研究所の城田真琴氏の『FinTechの衝撃』(東洋経済新報社)が出版された。FinTechの成立背景や具体的なサービスの事例、ブロックチェーンなどの中核となる技術が、丁寧に解説されている点が評判だ。本書を踏まえて、FinTechについての話をうかがった。

[公開日]

[取材・構成] 京部康男 (Biz/Zine編集部)

[タグ] ファイナンス 金融 AI・機械学習

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

FinTechはここ数年の技術の集大成

――『クラウドの衝撃』『ビッグデータの衝撃』(東洋経済新報社)『パーソナルデータの衝撃』(ダイヤモンド社)とお出しになられてきて、今回『FinTechの衝撃』を上梓されました。ここ数年の一連のお仕事は、すべて繋がっている印象を持ちました。

城田 そうですね。今のFinTechというのは一種の「アンブレラターム」(総称)です。ベースになっている技術としては、クラウドコンピューティングや、ビッグデータがあり、実際に金融のサービスを提供する時には、パーソナルデータの問題も絡んできます。そういう意味では、この数年調べてきた技術がFinTechにすべて集約されていると言えます。

――この本の中では、「マーケットプレイス・レンディング」「ロボアドバイザー」「モバイル決済・送金」「デジタルバンク」などのFinTechサービスの事例が詳しく紹介されています。日本でもスマートフォンで個人のお金の管理をするようなサービスのベンチャーが注目されています。こうした企業の収益モデルはどういうものなのでしょうか?

城田 取引ごとの手数料や預かり資産残高に応じた手数料など、サービスごとに収益モデルは異なります。ただ、最近では、競争が激しくなってきており、単一のサービスでは収益を上げることが難しくなってきています。そのため、たとえば、「決済×融資」、「PFM(Personal Financial Management)×ロボアドバイザー」のように、複数のサービスの連携によって、付加価値を向上させようとする取り組みが盛んになってきています。「Square」や「コイニー」などのモバイル決済サービスを導入している店舗の取引データを分析し、その店舗に対し、融資を提案するといったサービス形態です。

――こうしたサービスやAIが台頭してくると、金融業の仕事が奪われていくのでは?

城田 マイクロソフトの創設者であるビル・ゲイツは、1994年に「銀行の機能は必要だが、銀行は必要か」という言葉を残しています。このビル・ゲイツの言葉が、現在のFinTechの状況を端的に表していると思います。つまり、金融の仕事がなくなるというわけではなく、ベンチャーや一般事業会社に担い手が変わる可能性があるということです。
AIに関して言えば、テクノロジーによって、仕事が効率化されるのはAIブームだからではなくて、昔からあることです。今、人工知能が出てきてクローズアップされていますが、コンピュータによって人間が行ってきたアナログな業務が効率化されていると考えると従来からある問題と同じだといえます。従来と異なるのは、単純作業だけではなく、融資審査やコールセンターの問い合わせ対応など、ある程度、知的な業務がコンピュータ(AI)に代替される可能性があるという点でしょう。ただ、この点も人件費を削減したい金融機関にとっては、忌々しき事態ではなく、歓迎すべき事態ではないでしょうか。

タイトル『FinTechの衝撃』(城田真琴著、東洋経済新報社) Amazonリンク

日米のFinTechの違い

――今の日本でのFinTechベンチャーの可能性をどのように見られていますか。

城田 2007~8年に発生した金融危機・リーマンショックの影響により、大手金融機関に対する信頼が地に墜ちた米国と異なり、日本ではまだまだ大手金融機関に対する国民の信頼は厚いといえるでしょう。お金・資産を扱う金融サービスにおいて、信用は大変重要です。この点、日本の場合、大手金融機関のアドバンテージは依然として大きいと思います。このため、ベンチャーのサービスが消費者に受け入れられるためには、自社単独よりも、大手金融機関を通じて消費者に提供する方が、可能性が高くなると思います。
日本の金融機関の場合、系列のグループで導入するケースも多いので、メガバンクなど大手銀行に採用されれば導入の規模は大きい。最初の突破口が見つかるとうまく行く可能性があると思います。
現段階で、日本の大手金融機関がベンチャーに対して協力的なのは、自分たちだけでは、FinTechサービスの提供が難しいと考えているからです。とはいえ、最近は中途採用で、最新技術に明るく、これまでの発想にとらわれない人材を外部から採用する動きもあり、今後は社内のみで推進していく可能性もあります。

日本では大手とベンチャーは、まだお互いが様子を見合っている状況ですが、欧米の金融機関はベンチャーとの提携や出資を積極的に進めています。優秀なFinTechベンチャーの数も、日本よりはるかに多くあります。日本のFinTechベンチャーは出揃った感があるため、今後は日本の金融機関が海外ベンチャーに触手を伸ばすケースが増えるでしょう。

ブロックチェーンはまだ黎明期

――ブロックチェーンの仕組みについても一章を割いてわかりやすく解説されています。「プルーフ・オブ・ワーク」や「マイニング」などの仕組みは、この本で初めて理解出来ました(笑)

城田 ブロックチェーンは、「ピア・トゥー・ピア技術を使ってトランザクションを管理する分散型の台帳」です。その価値は、「全ての取引の履歴や所有権の移転の記録などを、中央の管理機関がいなくても信頼できる形で記録できる」ということです。

技術的な理解の必要性は立場によると思います。当然ブロックチェーンを使ってシステムを作る人にとっては仕組みの理解が必要ですし、立場によっては、難しい仕組みよりも、「何が出来るか」の可能性だけ分かれば良いという人もいます。
1990年代後半のEコマースの開始時のように、相手の顔が見えないネットワーク上でお金のやり取りを行うのは、どうしてもセキュリティ面や信頼性の面で不安が付きまとうので、不安な人は「なぜ安全なのか」を技術的な観点から最低限理解しておく必要はあるでしょう。

――The DAOの事件など、ブロックチェーンに関する問題が生じましたが、どのように見ておられますか?

城田 ブロックチェーンやThe DAO事件で問題になったEtheriumにしてもまだ黎明期ということでしょうね。The DAOの事件は、The DAOのコードの脆弱性をハッカーにつかれたわけですが、こうした状況はECの最初の頃と同じだと思います。ECの場合も、やはり便利なものだと多くの人が思ったので、課題をケアするソリューションが生まれ、次第に解決されてきました。同じようにブロックチェーンはまだ黎明期なので、いろいろ問題は生じてきてもそれは「産みの苦しみ」ということだと思います。問題が見つかったことで、解決策を考える人も出てきます。ブロックチェーンもそういう形で進展していくのではないでしょうか?

――ブロックチェーンはビットコインなどの仮想通貨の基盤であるとともに、それ以外の利用の可能性も多く語られますね。どの分野に一番期待されますか?

城田 どこからキラーアプリケーションが生まれるかは、まだ見極めが出来ない状況ですね。たとえば貿易金融のようにステークホルダーの多い業務で、紙の書類のやり取りをしているような分野、あるいは送金銀行と受取銀行の間にコルレス銀行(中継銀行)など複数の仲介機関が介在する海外送金などにおいて、ブロックチェーンが使われる可能性は非常に大きいと思います。金融機関の基幹システムへの応用という面については、今はまだ実証実験の段階です。当面は現行のシステムを置き換えるという方向よりは、これから新しく作るシステムでの活用の方が現実的だと思います。

事業会社にとってのフィンテックの可能性

――企業の経営者や事業開発者は、FinTechのどこに注目し、どのように検討するべきでしょうか?

城田 はじめに「業務効率化のためのFinTech」か、「事業のトップラインを伸ばすためのFinTech」なのか、 目的をよく考えた方が良いでしょう。「トップラインを伸ばす」というのは、たとえばロボアドバイザーのように、今までの顧客層とは違う層を対象に、新たな事業を作るという話です。「業務の効率化」は、ブロックチェーンを使って決済や送金コストを安くするとか、コールセンターにAIを導入して、顧客からの問い合わせ対応を効率化するといったことです。この2つの方向性で検討すべきと思います。

――金融系だけではなく、一般の事業会社にとっての可能性はどこでしょうか?

城田 通信や流通、インターネット系の企業などが、金融サービス業に参入しようとしています。特に「融資」と「決済」の分野に可能性があると見られています。たとえば中小企業向けのクラウド会計や、POS・決済サービスの会社は、顧客である中小企業の取引データを持つことによって、中小企業のお金の流れを把握できるため、即日に融資の審査を行うことも可能になります。金融以外の会社が「決済」や「融資」のビジネスに参入しようとする動きが出てくる。このあたりの領域は、今後面白いと思いますね。

――金融だけでなく、事業会社のビジネス開発の参考になるヒントや事例も多く含まれていると思います。ありがとうございました。

タイトル城田真琴氏
株式会社野村総合研究所 グループマネージャー 上席研究員
IT基盤イノベーション本部 デジタルビジネス開発部

バックナンバー