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獺祭、ソニーから見る『つくる力』への考察

櫻井博志☓辻野晃一郎 対談 Vol.1

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驕らず媚びず、バランスが難しい。

辻野:もちろんデータ分析は大事なのですが、昔のソニーは一切マーケット調査をしませんでした。誤解を恐れずに言えば、顧客に媚びない、姿勢ですね。自分が作りたいものを作る、だからこそ顧客が想定すらしない新しい商品を作って、今までなかった全く新しいマーケットを創ることが出来たのです。最初から顧客市場調査とかしてしまうと、顧客が想定した商品しか出てこなくなって、驚きとかサプライズは生まれない。市場調査は必要ないわけではないですが、そのバランスはすごく大事だと思います。短期的な数字、つまり目先の売上のために顧客に媚びてしまうと、私はその商品は将来的にだめになると思います。だから驕ってはいけないけど、媚びてもいけない。難しいところですよね。

桜井博志
旭酒造株式会社代表取締役会長。山口県生まれ。家業である旭酒造は、江戸時代創業。父の急逝を受けて家業に戻り、杜氏に頼らない酒造りを推進。銘酒純米大吟醸:獺祭の開発をし、見事経営再建を果たした。海外進出にも尽力。昨年、社長を退任し、会長へ。著書に『逆境経営 山奥の地酒:獺祭を世界に届ける逆転発想法』。

桜井:日本酒業界には、安いお酒を作っている酒蔵も結構あるのですが、すごくわかりやすいのが、そういうところの社長って自社のお酒を飲まない方が多いのです。何が好きかと聞くと『ワインが好き』と。おいおい、と(笑)

辻野:お客さんからしたら、たまらないですね。

桜井:たまらないけど、これが現実なんです。だから自分が好きで好きで『やっぱりこのお酒おいしいよなあ』と思うお酒を作らないと、ブランドは出来ていかないと思っています。少なくとも商売は出来るでしょうけれど。かなり前の話ですが、酒造メーカーの夏の集まりがあって参加したのですが、一次会はビアホールで、二次会はスナックかどこかでカクテルなど飲みながらやってるわけです。『日本酒売れないですよね』って。そりゃ、日本酒売れないですよね(笑)。

辻野:やはりアウトサイダーのすすめというか、変革は辺境からと言いますけれど、本流にいてもなかなか新しいことが出来ないのでしょうか。アウトサイダーになることを恐れないという、そういうことが大事なのだと思います。

桜井:弊社が獺祭を生み出せたのは、業界内で競争しなかったから、というのも理由としてあると思います。さらに、仲良しクラブみたいなところにも入らなかったし、足の引っ張り合いにも参加しなかった。弊社はすごく山の中にあるので、地域の経済人たちの集まりに入れてもらえなかった。それが逆に良かったのかもしれません。

辻野:いろいろ介入されたり、こちらも配慮したり気を使ったりしますからね。

桜井:独自の作り方だったがゆえに、あまり相手にされませんでした。気がついた時には今の地位にいました。

デバイスにこだわる日本、プラットフォームで考えるアメリカ。

辻野:ソニーやグーグルにいて感じたこととして、グーグルやアマゾンの様なプラットフォーマーに対して、日本勢はプレーヤーだということです。今や、ハードもインターネットやプラットフォームと組み合わせになっていないと意味がない時代ですが、日本勢は相変わらずデバイス中心志向で、プラットフォームに弱いのが現状です。

桜井:私達酒蔵もそれに近いところがあります。日本人は、デバイスを一生懸命高めることに必死になりすぎると感じます。

辻野:私のソニーでの最後の仕事として、ウォークマンがiPodにやられた時に、ソニーとして巻き返しを図ろうとしました。しかし、もともとウォークマンをやっていた人たちからは、『バッテリーの寿命を長く』『音質を良く』『ウォータープルーフにする』といったデバイス単体の競争力を高めるような意見が主流で、『デバイスのスペックで勝てば勝てるんだ』という固定観念には根強いものがありました。しかし事の本質は、『iPodやiTunesがパーソナルオーディオの概念を根底から変えてしまった』ということをまず理解する必要があったわけです。

桜井:他の酒蔵が、獺祭の2割3分に対抗して『二割二分』を作ったことと同じですね。大局的な考えもなく、そこを突き詰めていくというのは違うと思っています。

辻野:どこまでもデバイスの性能や品質を追及していくことはすごく得意なんですよね。獺祭だけでなく、日本食や伝統工芸品など生活文化産業においても、その全体を包含する日本文化とか日本の生活産業みたいなプラットフォームがあって、そこと関連付けることによって価値がさらに上がる、そういうことだと思います。でもなかなか作り手側にはそういう意識がないんですね。私も伝統工芸品を作る作家の方々とさまざまお付き合いしていますけど、同じ業界の中でも足を引っ張り合うみたいなところがありますね。

桜井:酒造メーカーもそうですね。

辻野:本当は、皆がもうちょっと視野を広げられたらいいのですが。今まで一つ一つの点で頑張っていたけれども、一つのプラットフォームに集まって、日本の生活文化産業を一緒に発信していくというような視点があると、世の中の一つ一つの点が面となってさらにバリューアップすることになっていくと思っています。ただ、なかなか簡単じゃないですね。(続く)

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