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獺祭、ソニーから見る「未来を創る組織」についての考察

櫻井博志☓辻野晃一郎 対談 Vol.2

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日本を代表する銘酒 獺祭 (旭酒造)を生み出し、昨年社長を退き会長となった桜井氏と ソニーのカンパニープレジデントやGoogle日本法人社長など名立たるグローバル企業のトップを歴任した後、自ら独立起業した辻野氏に、経営の極意についてそれぞれの経験を踏まえて語ってもらった 。

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遊ぶ社員と、失敗を闇に葬るマネジメントがイノベーションを導く

辻野晃一郎
慶応義塾大学大学院工学研究科、カリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。
ソニーカンパニープレジデント、グーグル日本法人代表取締役社長歴任後、現アレックス株式会社CEOを務める。早稲田大学商学学術院客員教授。『:出る杭は伸ばせ!なぜ日本からグーグルは生まれないのか?』など著書多数。

辻野: かつてのソニーは、自分のやりたいことをやったり作りたいものを作る集団で、ある意味ノリがいい、とがった人たちが多くいました。そして、エンジニアがやることに上手に事業として目鼻をつける懐の深いマネジメントがたくさんいて、失敗しても上手に闇に葬ってくれていました。こうした環境がソニーの成長の原動力だった気がします。 

桜井: なるほど。私は逆に失敗を公言しています。ジョエル・ロブション氏とのフランス出店が遅れている、ライスミルクという米ぬかで作った飲料作りも計画通りには進んでいない、銀座の直営店の売上も思ったほどは良くない、失敗中ばかりです。 

辻野: マネジメントが、部下のチャレンジに対しておおらかだったので、すごく現場はのびのびとやりたいことをやっていました。そうした環境があったからこそ、『人がやらないことをやる』『絶対に二番煎じはしない』という、ソニーらしいエンジニアの気概というか矜持が育ったように思います。 

辻野: 『トライアンドエラーの繰り返しを当たり前の感覚にする』というのが本当に大事なことですよね。日本の大企業がどんどんダメになっていく一つの理由として、現場の失敗を許容しないということが大きいと思います。会社が大きくなっていくと、なかなか失敗出来なくなってくる。まさにイノベーションのジレンマですね。 

桜井: 私は旭酒造を、失敗したことを認められる会社として維持していけたらと思っています。自分で失敗を認められたら、自分でまた変えていけると思います。 

辻野: どのような工夫をされていますか? 

桜井: チャレンジする人たちをトップとしての特権で守ってあげて、いろんなことをやらせてあげています。まあ、旭酒造の社員たちは、守ってもらっているとは全然思ってないと思いますが。社内では、私は天災と呼ばれていまして、『なんでこんな否定されるんだろう』と社員は思っているんじゃないですかね(笑)。 

“らしい”組織を維持するためには

辻野: 企業体が大きくなってくると、トライアンドエラーを許容するカルチャーをいかに残し続けるか、それこそが経営努力だと思います。経営者の器量にもかかってきますね。オーナー企業は、やはりそういうチャレンジし続ける体質を残しやすいのかもしれません。 

桜井: 経営者がある程度自分で決定出来ますからね。そういえば、もともとソニー創業者の盛田昭夫さんの実家は酒蔵でしたよね。 

辻野: そうですね。ソニーは、創業者が二人とも亡くなった後に、集団指導体制に切り替えていく過程で、社外取締役制とか執行役員制度などの欧米型のガバナンスをどんどん率先して取り入れたのです。 

桜井博志
旭酒造株式会社代表取締役会長。山口県生まれ。家業である旭酒造は、江戸時代創業。父の急逝を受けて家業に戻り、杜氏に頼らない酒造りを推進。銘酒純米大吟醸:獺祭の開発をし、見事経営再建を果たした。海外進出にも尽力。昨年、社長を退任し、会長へ。著書に『逆境経営 山奥の地酒:獺祭を世界に届ける逆転発想法』。

桜井: 文化や体制を残すのは、非常に難しいですね。 

辻野: 経営指標にも当時米国で流行っていたEVAなどを導入して短期的な成果を求める傾向が強くなりました。裏でやってるようなこともすべて表に出して、採算性を吟味するということをやり始め、一気にイノベーションを生み出す活力がなくなっていってしまったような気がします。イノベーションには、『遊び』の要素が重要だと強く思います。10個やって10個ともヒットするなんてありえないですからね。 

桜井: でも10個やって10個当たることを要求されるから、そうなるとバッターボックス自体に立ちませんよね。もし立つことになっても、振らないということが正解になってしまいます。 

辻野: そうですね。だからこそ、そうなってはいけないという意識で、多くの企業が機構改革などをやるのでしょうね。しかし、いったん失敗を嫌う人が多く中枢に残る流れになると、一回でも失敗すると窓際に出されたり子会社に出されたり、失敗に対する許容度が失われて、結局チャレンジしない集団になってしまいます。チャレンジしない人たちがマジョリティになった集団からは、イチかバチかやってみようという人はなかなか出てこないでしょう。仮に現場が新しいチャレンジを進めようとしても、事業計画審議会などで『本当にうまく行くのか?』とか『儲かるのか?』という懐疑的な質問や否定的な意見に多く晒されます。そうすると現場も怖気づいて、チャレンジ出来なくなっていく、という負のスパイラルになりがちです。 

桜井: 旭酒造では、『バッターボックスに立ったらなんでもかんでも振れ』と言っています。尻餅ついてもいいじゃないかと。ただ私がそう言って、私自身も失敗中であることを公言しても、なかなか会社はそうならないのですよね(笑) 

辻野: かつて旭酒造さんが潰れそうなときに働き続けてくれた人と今の輝けるブランドを持つ旭酒造に惹かれて入って来る人では、いろいろと異なっているのではないでしょうか。 

桜井: そうですね。やはり様々な人が入ってきます。 

辻野: ソニーでもグーグルでも感じましたが、有名になるにつれて、そこの製品やサービスが好きで入ってくるのではなく、単にブランドや待遇に憧れて入ってくる人たちがどうしても増えてしまいます。『仕事は別にどの会社でもいいけど、ブランドや待遇がいいから入る』、『そこで働くことが、自分のステータス』といった人たちが増えていくのはやむをえないところもあるので、経営者としては、創業時の活力が薄まらないように工夫する必要があります。 

桜井: たいていの場合、『優秀』な人がおかしくしてしまいますね(笑) 

辻野: ソニーも一時期、カンパニー制などいろいろな仕組みを取り入れて、次世代を育てるための施策を積極推進していた時期がありました。しかし、育成というのは、トップが覚悟してしっかり腰を据えて行わないと上手くいきません。当時のソニーにはすでに創業者がおらず、サラリーマン世代になってしまっていたため、腰が入っていないというか、いろんな意味で中途半端で、うまく後継者を育てることができませんでした。 

桜井: あと、事業を続けていると、その領域について技術も知識も進化していきますよね。そうしたら、逆に新しいモノが生み出せなくなるのです。だからこそ『出来る組織』に変えるために、無理矢理にでもチャレンジさせて、失敗の中で学んでもらう必要があると考えています。 

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