獺祭、ソニーから見る「今の時代に求められる経営力」についての考察

櫻井博志☓辻野晃一郎 対談 Vol.3

日本を代表する銘酒「獺祭」(旭酒造)を生み出し、昨年社長を退き会長となった桜井氏と ソニーのカンパニープレジデントやグーグル日本法人社長など名立たるグローバル企業のトップを歴任した後、自ら独立起業した辻野氏に、経営の極意についてそれぞれの経験を踏まえて語ってもらった。

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[提供元] 異端会議

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資金が底をつかない限り、失敗ではない

辻野:経営という視点では、資金が底をついてしまったら会社はつぶれてしまいますけれど、会社を存続し続けられている限りは、失敗とは言えないと思います。

桜井:実際にどうにもこうにもならない時期を過ごした体験から言うと、おっしゃる通りで、企業は金繰りだと思います。金操りさえなんとか続いたら、あとは周りに何と言われようと、なんとかなるんです。何より大事なのは金繰りなんです。

辻野:私は、銀行から借金だけはしないようにしています(笑)。借り入れは一切しません。とにかくどんなに厳しくても、銀行から借りる手段以外の手法で資金繰りを算段してきました。ただ、株主などに納得していただくためのビジネスプランは、現実にその通りにいくかというと、初日からそうはいかないです。

桜井:そうですね、確かに(笑)

辻野:変な表現ですが、うまくいかない時に、恍惚状態になれるのが経営者の特徴ではないでしょうか。普通は計画通りにいかないことが続くと弱気になって心が折れたりしますが、思い通りにいかないほどアドレナリンが出てきて燃えるのが起業家の資質だと思います。

桜井:何か困った問題が起こったら、『ああ、やったやったやった』みたいな『ここは経営者としての腕の見せ所だろう!』ということは感じることはありますね。銀座に直営店をオープンしているのですが、これも思ったほどは売上がいってないので、順調に失敗中です。ただ、会社の経営者として金融的な失敗にならないようなバックボーンだけは作っています。だからこそ、現場の担当者ももっと失敗であることを認めていいと思います。自分で『失敗してるんだ、今』とか言ってね(笑)

辻野:チャレンジする人や起業家は、絶体絶命や逆境の真っ只中にいる、という状況にたびたび遭遇します。しかしそういう人たちは、絶体絶命だとは思わず、チャンスだと思うのですよね。そして実際に結果的にチャンスに変えていく、そういう力がある人が世の中を変えていくのだと思います。

桜井:そうですね。米の売上が落ちていて米自体は余って困っているのに、山田錦は足りないという状況が数年続いています。『山田錦が足りない』とあちこちで言っていたら、様々な所からプレッシャーを受けました。日本酒業界の人達からは『獺祭が山田錦を買い過ぎるからだ。我々はいじめられている』と非難されました。私も最初は気づかなかったのですが、逆にそれが大きな宣伝、広報活動になっていたのです。私が『山田錦が足りない』とあちこちで言って歩くだけで、『獺祭買ってよ』と言うより数倍意味があったのです。

辻野:ピンチに遭遇しても、しめしめと思って乗り越えて、それを積み上げていくことが参入障壁というか、自社のコアコンピタンスになっていくのですよね。

辻野晃一郎
慶応義塾大学大学院工学研究科、カリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。
ソニーカンパニープレジデント、グーグル日本法人代表取締役社長歴任後、現アレックス株式会社CEOを務める。早稲田大学商学学術院客員教授。『:出る杭は伸ばせ!なぜ日本からグーグルは生まれないのか?』など著書多数。

経営には、破天荒な創業者と堅実な番頭が理想?!

辻野:ただ、一人で事業を立ち上げることはしんどいと感じました。私は実質的には一人で今の会社を立ち上げたので、最初の頃は、誰も相談相手がいないし愚痴る相手もいなくて結構しんどかったです。今では苦楽を共にした優秀で信頼できるパートナーに恵まれていますが。

桜井:前に進みすぎていたら逆に引き戻してくれたり、時には防御に回ってくれたりと、そういう存在がいると助かりますよね。

辻野:得てして、創業者には、アイデアが豊富でイケイケどんどんなタイプが多いと思います。しかし入るを量りて出ずるを制すの出ずるを制すというところに弱かったりするので、そこをちゃんとフォローしてくれる番頭さんのような人がついてると、すごくいい組み合わせになるのでしょうね。

桜井:弊社みたいな100億円クラスの企業だったら、糟糠の妻というパターンはあります。なにかの宣伝で、奥さんは絆創膏貼って一生懸命仕事しながら、旦那はゴルフに行く、みたいな感じですね。

辻野:のろけていらっしゃいますね(笑)

桜井:『これ言いたいけれど、経営者の自分が言ったらまずいだろうな』ということもけっこうありますからね(笑)

辻野:破天荒な創業者と、堅実な番頭さんみたいな組み合わせは、経営の上で理想的なのかもしれないですね。ソニーなら井深大と盛田昭夫、グーグルならラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンなど、わりと成功している企業には、才能に溢れた二人の共同創業者の組み合わせという例が多いように思います。さらに、シリコンバレーでは、ベンチャーキャピタルがプロ経営者と呼ばれる人を送り込みます。グーグルの場合は、エリック・シュミット。才能に溢れた天真爛漫な二人の子供達に大人の後見人をつけるみたいなイメージです。エリックはそれこそプロ経営者で、経営に関してはよちよち歩きだった二人の創業者を支えたという貢献は大きいと思います。

桜井:プロ経営者は、主には番頭の役目を果たすですね。

辻野:そうですね。それと、プロ経営者というと、業績が悪くなった企業を立て直す再建屋のイメージもありますね。コストカットして出血を止め、経営数字を短期間で回復させるようなプロフェッショナリズムはもちろん貴重なのですが、本来の意味でのプロ経営者とは、立て直した後の企業をさらに発展させる成長戦略、まさに『その先へ(注:獺祭の銘柄名)』とセットで実行する力の持ち主であることが必要なのだと思います。

桜井博志
旭酒造株式会社代表取締役会長。山口県生まれ。家業である旭酒造は、江戸時代創業。父の急逝を受けて家業に戻り、杜氏に頼らない酒造りを推進。銘酒純米大吟醸:獺祭の開発をし、見事経営再建を果たした。海外進出にも尽力。昨年、社長を退任し、会長へ。著書に『逆境経営 山奥の地酒:獺祭を世界に届ける逆転発想法』。

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