スティーブ・ブランク氏が語る、顧客開発モデル

来日講演レポート・前編「事業創造3つのポイント」

[公開日]

[著] 本荘 修二

[タグ] スタートアップ ビジネスモデル デザイン思考 競争戦略

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大企業とは異なるスタートアップの方法論

 大企業と異なるスタートアップの方法論について、ブランク氏はさらに数値管理セールス/マーケティング開発計画に関して、既存事業とスタートアップを対比する。スタートアップは新たな事業を創造しようと探索することが主題であり、すでに分かっている既存事業を実行することが主の大企業のやり方をあてはめてはいけない、とブランク氏は様々な視点から具体的に説明する。

スティーブ・ブランク氏セミナーレポート 画像図表3.スタートアップはビジネスモデルを探索し、軌道修正をしていく

 数値管理について、既存事業は従来型の会計数値をみればよいが、ブランク氏は次の様な例をあげてスタートアップは全く異なると指摘する。

 「あるスタートアップでは、6週間ごとの取締役会でベンチャーキャピタルが損益計算書を求めるから提出はするが売上はゼロ。これでは意味がない。スタートアップは探索をしているので、形式的な会計数値ではなく、顧客単価や顧客獲得コスト、バーンレートなど他の指標をみるべき。それも指標の数はせいぜい10くらいで、主要なものにフォーカスする」

 セールス/マーケティングについては、「営業VP(バイス・プレジデント)など、スタートアップでも大企業と同じ肩書を見受けるが、経験の長いシニアの人材を雇ってもうまくいくわけではない。既存事業はよく分っているからジョブ・デスクリプション(職務内容)も決まるが、スタートアップは不確実であり経験があっても役に立つかは分からない。結果が出なくて個人の失敗としてクビにしても問題は解決しない。スタートアップでは、どんな顧客かも、どういうマーケティングをすればいいかも分からないし、過去のやり方や人脈が通用しない」とブランク氏は、分かりやすい例をもとに大企業と同じセールス/マーケティングのマネジメントをしてはいけないと説く。

 開発については、「大企業は市場が求めることやスペック、機能が分かっているから、ウォーターフォールで開発できる。しかし、スタートアップでは、推測が多く、仕様はまだ固まらず、アジャイル開発を行う。学習しながら、MVP(実用最小限の製品)から徐々に開発していく」と、ブランク氏はソフトウェアやウェブサービスで活用されるアジャイル・エンジニアリング(仕様変更などの変化に対して機敏に対応し、迅速かつ適応的にソフトウェア開発を行う軽量な開発手法)の有効性を説く。

 また、ブランク氏は、計画について、「大企業では、正式な書類としてビジネスプランがつくられる。既に分かっている点を記述し、それをベースにまとめる。業務プランをファイナンシャルに落としたものであり、実行するためのものだ。しかし、スタートアップでは“紙よりも学習が先”だ。何を知らないかを明らかにして探索し、ビジネスモデルを作っていく」と、従来型のビジネスプランが事業創造には合わないと指摘する。

 さらに、「スタートアップでは、顧客はプランの通りに行動しない。もっと言うと、初めての顧客との接触で生き残るビジネスプランはないのだ」と、カオスのような戦国絵図を見せながら、初回の顧客ミーティングでどんなビジネスプランも叩かれて変えざるを得なくなるとブランク氏は言う。

 「新事業ブラニングでは、5年分の損益計算書の見通しさえあればいいと思われてきた。しかし、分からないことだらけで5年の予測数値など意味があるのか。プロダクトマネジャー、CFO、ソ連、そしてベンチャーキャピタリストしか5年計画を求めはしない」と冗談と皮肉を交えてブランク氏は語る。

 実際には新事業でも既存事業のやり方を適用することが少なくないが、成功確率を上げるにはスタートアップに適した方法論で取り組まねばならないのだ。

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