SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

SERENDIP書籍ダイジェスト

宇宙のマルチプレーヤー人工衛星はなぜ必要か

Vol.5

  • Facebook
  • Twitter
  • Pocket

ビートルズの公開録音の中継が人工衛星が身近になるきっかけに

 冷戦時代、米国とソ連の両大国は、互いの威信をかけて技術開発競争に明け暮れた。そしてそれは宇宙開発競争へと発展し、結果的に人工衛星の技術進歩を後押しすることになった。

 この当時の人工衛星は、ミサイルの誘導や潜水艦の位置特定など、軍事的利用を主目的としていた。熾烈な競争の末、人類が初めて地球周回軌道に乗せたのは、ソ連が1957年10月4日に打ち上げた「スプートニク1号」だった。この成功は世界中にセンセーションを巻き起こし、宇宙時代の到来を告げるものとなった。米国が初の人工衛星「エクスプローラー」の軌道投入を成功させたのは、半年後の1958年2月1日だった。

 その後、米国は「SCORE計画」を発表。これは通信衛星を実現する計画で、1958年12月18日、世界初の通信衛星「SCORE」を打ち上げた。そして、宇宙空間から、当時のアイゼンハワー大統領の録音メッセージの地上への放送を実現させた。

 SCOREの成功を受けて、軌道上に複数の人工衛星を設置して電波を中継することで、地球全土での通信を可能とする技術がめざされた。これは、先述のアーサー・C・クラークが当時構想していた技術に他ならない。ここに来て、それが多数の技術者や科学者が本格的に努力する対象になったのだ。

 だが、人工衛星から地上への通信には、避けられない課題があった。衛星の周回が高速すぎると、地上のポイントの上空をすぐに通り過ぎてしまうため、信号の授受を行える時間が短くなってしまう。だが、衛星が重力に逆らい地球の周りを回り続けるためには、高速にならざるを得ない。このジレンマを解消するためには、重力の影響が小さくなる高度の軌道に、人工衛星を乗せることである。

 当初は打ち上げロケットの性能に限界があったが、技術が向上するにつれ打ち上げ可能な高度も上がってきた。そして1962年7月10日、NASA(米国航空宇宙局)は通信衛星「テルスター」を打ち上げ、軌道に乗せた。その後打ち上げられた通信衛星「シンコム3号」は、テレビ電波を中継するのに十分な能力を持ち、1964年東京オリンピックの様子を米国の視聴者に届けることができた。

 しかしながら、これらの衛星の軌道の高度は、まだ十分ではなかった。そのため、通信を行うには地上に設置したアンテナを動かし、移動する衛星を追跡しなければならず、効率と精度に問題があった。それを解決するには、地球の自転速度と周回速度を一致させられるまでの高度が必要だった。それを実現した人工衛星は「静止衛星」と呼ばれる。

 1964年に、米国を中心に英国や日本など計11カ国が参加した国際機関「インテルサット(国際電気通信衛星機構)」が発足。同機構は、翌1965年に、商用通信衛星「アーリーバード」を、静止衛星として初めて打ち上げた。

 アーリーバードと、その後打ち上げられた数台の静止衛星を使用したシステムのデモンストレーションなどの目的で、BBC(英国放送協会)が主導して企画されたのが「アワ・ワールド(われらの世界)」。これは世界初の多元衛星中継によるテレビ番組で、1967年6月25日から26日にかけて、世界24カ国で同時放送された。14カ国の放送局が参加し、世界31地点を4台の通信衛星で結んだのである。

 この番組では六つのテーマのもと、地球上のさまざまなシーンが映し出された。中でも後世に語り継がれることになるのが、ビートルズによる公開レコーディングだ。当時未発表曲だった『All You Need Is Love(愛こそはすべて)』が、ローリングストーンズやエリック・クラプトンらをゲストに迎え、初披露された。この放送は、人工衛星が一般の人々の生活にも関わる身近な存在になったことを象徴するものだった。

次のページ
望遠鏡を衛星の軌道に乗せることで高精度の天体観測を可能に

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • Twitter
  • Pocket
SERENDIP書籍ダイジェスト連載記事一覧

もっと読む

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • Pocket

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング