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DXの次のパラダイムシフト「QX」

量子コンピュータで世界を変える素材開発を──JSR大西氏が取り組むパラダイムシフトに向けた先行研究

第2回 ゲスト:JSR 大西裕也氏

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 今、「量子コンピュータ」が注目を集めています。本格的な実用化はまだまだこれからですが、世界中で量子コンピュータの特性を活用したアプリケーションの開発が進んでいます。本連載では、先進的に量子コンピュータの活用を開始している企業への取材を通して、近い将来起こるであろうDXの次のパラダイムシフト「QX(Quantum Transformation)」について掘り下げていきます。  第2回は、マテリアルズ・インフォマティクス分野に量子コンピュータを活用し、新規材料・素材開発に邁進するJSR株式会社 RDテクノロジー・デジタル変革センター マテリアルズ・インフォマティクス推進室の大西裕也氏にお話を伺いました。聞き手は株式会社ビザスクの高橋沙織氏です。 ※取材はマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを保って行っています。

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計算技術とともに進化する「マテリアルズ・インフォマティクス」とは

高橋沙織氏(以下、敬称略):最初に、JSRが取り組むマテリアルズ・インフォマティクスとはどのような分野なのか、簡単にご説明いただけますか。

大西裕也氏(以下、敬称略):マテリアルズ・インフォマティクスとは、マテリアル(材料・素材)の開発にインフォマティクス(情報技術)を用いること、要するに、材料開発にコンピュータを用いることを言います。中でも、化学や創薬の分野に計算技術を用いることを「ケモ・インフォマティクス」と呼ぶのですが、その歴史は長く、日本でも約40年前から取り組まれてきました。

 古くから行われてきたのは、「こういう形の物質であれば、このような性質が発現するはずである」というように、物質の「構造」から「性質」を予測する計算でした。最近になってこの分野への注目度が上がっているのは、計算機性能の向上と、機械学習技術が発展したことにより、「性質」から「構造」を予測するという“逆方向”の計算が可能になったことが大きいです。そうすると、顧客からの「こういう性能の素材が欲しい」といったリクエストに応じて、材料開発ができるようになります。まだ乗り越えなければならない壁はいくつかありますが、弊社でもこの技術を活用して、半導体やディスプレイの素材に挑戦しています。

JSR株式会社 RDテクノロジー・デジタル変革センター マテリアルズ・インフォマティクス推進室 次長 博士(工学) 大西裕也氏
JSR株式会社 RDテクノロジー・デジタル変革センター マテリアルズ・インフォマティクス推進室 次長 大西裕也氏

高橋:そのマテリアルズ・インフォマティクスの中で、「量子」がどのように関わるのでしょうか? また、大西さんが専門とする量子化学計算とはどのようなものなのでしょうか?

大西:「化学の計算」と言っても、様々なレイヤーがあります。そして、どのレイヤーのシミュレーションをするかで扱う物理が変わってきます。

 たとえば、工場の配管の中をどうやってモノが流れていくかをシミュレーションする場合、「これくらいドロドロしたものだったら、パイプの太さはこれくらい必要だ」「これくらいの速さで流さないといけない」というものです。こうした問題の解答を導き出すのも、化学のシミュレーションの一つです。もう少し小さなスケールでの最近の例では、コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質の動きに関しても、シミュレーションが行われていたりします。ここまでは古典力学でも記述できる世界です。

 そこからさらに細かく見ようとすると、古典力学では及ばない世界になっていきます。分子を構成する原子は原子核とその周りに広がっている電子からなっていますが、その電子の広がりかたをシミュレーションするには、量子力学が必要になってくるのです。こうした量子レベルの化学計算のことを「量子化学計算」と言います。

 私は研究者時代、一貫してこの量子化学計算の“理論”を研究していました。一時はそのままアカデミックの道を進むことも考えましたが、一方で、こうした量子化学計算の技術を“使う”ことにも興味がありました。そこで、運よく就職できたのが現在のJSRというわけです。

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この記事の著者

鈴木 陸夫(スズキ アツオ)

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