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DXの次のパラダイムシフト「QX」

日本製鉄が量子コンピューティングで目指す「製造プロセスの最適化」

第6回 ゲスト:日本製鉄 平野弘二氏

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 今、「量子コンピュータ」が注目を集めています。本格的な実用化はまだまだこれからですが、世界中で量子コンピュータの特性を活用したアプリケーションの開発が進んでいます。本連載では、先進的に量子コンピュータの活用を開始している企業への取材を通して、近い将来起こるであろうDXの次のパラダイムシフト「QX(Quantum Transformation)」について掘り下げていきます。  第6回は、製鉄業の世界で量子コンピュータを活用した生産計画と生産効率の最適化に挑戦している日本製鉄株式会社 インテリジェントアルゴリズム研究センター 上席主幹研究員、平野弘二氏にお話を伺いました。聞き手は株式会社ビザスクの高橋沙織氏です。 ※取材はマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを保って行っています。

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製鉄現場の「組み合わせ爆発」を量子で解決する

高橋沙織氏(以下、敬称略):日本製鉄さんが鉄鋼製造プロセスの最適化に量子コンピュータを活用する実証を行ったということで、本日はその詳細を伺えればと思います。まずは平野さんのご経歴から簡単にお聞きしてもよろしいですか。

平野弘二氏(以下、敬称略):私は学生時代に機械工学を学んでいました。カリキュラムには基礎的な物理学も含まれており、その中で出会った量子力学の不思議さに惹かれ、修士課程では量子コンピュータとも関連する量子光学の研究へと分野を変えました。日本製鉄に入ってからは、12年ほどレーザー加工の研究開発に携わり、その後他の部門を経て5年前に再び研究職に戻りました。その際、新設されたインテリジェントアルゴリズム研究センターに配属となり、様々な要素技術を用いて生産プロセスを効率化する研究を行っています。量子コンピュータの活用の研究もその一環ですね。

高橋:ありがとうございます。具体的には、どのような課題に対して量子コンピュータを用い、どのような成果を目指しているのでしょうか。

平野:主に生産計画や工程、物流の最適化で、何をどのような順番で処理をするか、あるいはどういう経路を選び運ぶのがベストなのかという課題です。専門用語で「組み合わせ爆発」と呼ぶのですが、条件や要素が増加することでこの順序や経路の選択肢の組み合わせが爆発的に増加し、計算が追い付かなくなります。このような問題が製鉄業の現場には数多く存在します。

 我々の事業は、日々様々なお客様からオーダーをいただいてから製造する受注生産です。それぞれのお客様によって、ご要望の寸法、材質や納期は異なり、多品種少量の生産になります。一方で、鉄鋼業は1つの素材から複数の製品を生産するブレークダウン型の製造方式が特徴です。膨大かつ様々なオーダーに合わせて効率的に生産を行うためには、異なるお客様のオーダーをうまくグルーピングしていく必要があります。いわゆる「組み合わせ最適化」ですね。この計算に、量子コンピュータの力を活用しようとしています。

高橋:複数のお客様のオーダーをグルーピングするにあたって、計算に必要な変数にはどのようなものがあるのでしょうか。

平野:求められる鋼材の成分、幅や厚み、製法などです。成分は製鋼工程で300トン程の単位で造り込み、幅や厚みは圧延工程で、最終的な材質は熱処理工程で造り込みます。このように各製造工程で製造条件が近いオーダーや半製品を製造工程毎にグルーピングすることで効率的な生産を可能としています。また、「組み合わせ爆発」の問題は、解くべき問題が大きいほど顕著になります。大きいところだと1つの製鉄所だけで東京駅から新宿駅くらいまでの広大な敷地があり、1日1万トンという量の鋼材を生産しているため、日々「組み合わせ爆発」の問題に直面しています。

画像を説明するテキストなくても可
提供:日本製鉄株式会社
クリックすると拡大します

高橋:量子コンピュータを用いた組み合わせ最適化の実証を行われていますが、現状はどのように計算を行っているのでしょうか?

平野:古典コンピュータでできるかぎりの最適化を行っています。もちろん古典コンピュータも演算スピードはどんどん上がっていますし、できることは増えています。しかし、それでもそろそろ限界が見えてきたところで、量子コンピュータにも期待をしているということですね。

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この記事の著者

友清 哲(トモキヨ サトシ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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