「外資系企業の日本支社を東京ではなく大阪に誘致する」というチャレンジ
入山(早稲田大学ビジネススクール准教授):
今までの議論のなかで、社会や組織におけるゲートキーパーの役割が低下しているというお話をうかがいましたが、「ゲートキーパー」がフィレンツェやシリコンバレーをクリエイティビティにあふれた都市へと成長させ、結果としてイノベーションの中心地となったことは間違いありません。世界的なイノベーションの起点として、クリエイティブな都市の存在が重要であるという前提のもとでの話になりますが、ゲートキーパーの役割が低下している中で、都市がクリエイティブな文化を醸成し、クリエイティブな人間を世界中から集めるにはどうしたら良いと思われますか。
トム・ケリー(IDEO 共同経営者、以下、ケリー):
数年前、大阪市長と協力してイベントを開催した際、パネルディスカッションで「外資系企業の日本本社を東京ではなく大阪に誘致するにはどうすれば良いか」という難しい問題について議論しました。その時に出した答えは、「大阪を日本一“英語フレンドリー”な都市にすれば、大阪を選ぶ企業もあるかもしれない」というものでした。つまり、全ての標識をカナダのモントリオールのように二カ国語にしたり、流暢に英会話の出来る人材を日本一輩出するような教育制度を整えたり、契約書を常に二カ国語で用意したりする、というようなことです。
それに対して、「英語が母国語のアメリカ人だからそのように考えるのでは」という懐疑的な空気を感じたので、「私はアメリカ人のために話しているのではなく、世界中の人達のために話しているのですよ」とはっきり申し上げました。中国では現在、2億人もの人が英語を(日本語ではなく英語を)勉強しているのです。日本はアメリカとだけビジネスをしようとしているのではなく、英語を共通言語としている世界中の国々とビジネスしようとしているのですから、当然英語が重要となりますが、これは東京にも言えることです。
入山:
なるほど、グローバルな視点を持っているイノベーティブな人や企業が活動しやすい環境をつくる。それがイノベーティブな都市を育てると考えられているわけですね。
ケリー:
ええ、いずれにしても、都市や地域のレベルでその魅力を高めるための施策を考えることはたいへん価値ある取り組みだと思います。Facebookは元々アメリカの教育の中心地とも言えるボストンにありましたが、会社の成長に必要なものを得るため、シリコンバレーに移転して来ました。人や企業の求めるものがあるということは、都市の理想像と言えるでしょう。大阪であれ、東京であれ、どこの都市・地域であっても、人々に「ここに来たい」と思わせるにはどうすれば良いか、ということを考えるのです。