ダークデータ、マシンインテリジェンス、複合現実 ── デロイトトーマツが新たなトレンドを発表

デロイトトーマツコンサルティングは「Tech Trends 2017日本版」を発表した。このレポートでは、ダーク・アナリティクス、AR、マシンインテリジェンスなどのテクノロジーの進化の方向性と、日本企業がそれらをどう活用すべきか解説している。本レポートの注目点を、プレス向けの説明で語られた内容とあわせて紹介する。

[公開日]

[取材・構成] 京部康男 (Biz/Zine編集部)

[タグ] テクノロジー IT戦略

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デロイトトーマツ コンサルティング 執行役員パートナー 安井望氏
デロイトトーマツ コンサルティング 執行役員パートナー 安井望氏

「Tech Trends 2017年 日本語版」は今期注目すべきテーマ群を、以下の8つの章立てで解説している。

  • 組織の垣根を越えるIT :IT変革におけるビジネスのポテンシャル
  • ダークアナリティクス:非構造化データに眠るビジネス機会に光をあてるために
  • 機械知能(MI)時代の到来 : テクノロジーがヒトの認知を模倣して価値を生む
  • 複合現実(MR): より直感的で没入感のある今までにない体験へ
  • イネビタブルアーキテクチャ :「複雑さ」は「シンプルさ」と「柔軟性」への道を開く
  • サービス化されていくシステム : サービス化による基幹システムの再創造
  • Blockchain:トラスト経済圏 : デジタルアイデンティティの制御
  • 飛躍的進化が期待される技術のウォッチリスト: イノベーションの兆しが見えるテクノロジー

4月6日に行なわれた本レポートのプレス向けの発表で、デロイトトーマツコンサルティングの 安井 望氏は以下のように述べた。

「企業戦略では、ますます新しいテクノロジーの活用が重要となってきている。そのため今まで以上にアンテナを張り、高度化するテクノロジーをどう活用するかを考える必要がある。今回のレポートでとりあげているのは特に真新しいテクノロジーというわけではなく、ここ数年続いている技術であり、それらの進化が加速化し高度化してきていることが特長だ。」(デロイトトーマツコンサルティング 安井氏)

そして、技術の組み合わせや活用に重点がシフトしていると述べ、各章の特長を解説した。

再編が迫られるIT部門

『Tech Trends2017』
デロイトトーマツ『Tech Trends2017』のページより

第一章の論点は、組織の縦割りにともなう情報のサイロ化を、IT部門が乗り越える試みを始めたというものだ。部門横断的なチームを組成し組織、プロセス、システムの全面的な見直しアプローチに取組みが行われているという。

「企業のITのサービス化が求められている中で、これまでのサイロ化したシステムでは、ビジネス部門にサービスを提供できない。クラウドもまた単一のものではなく、複数のクラウドサービスをつなぐケースが多い。こうしたニーズからIT組織の再編が始まっている」(安井氏)

またこうした動向の中で、求められるCIOの役割も変化についても解説されている。これまでの「システムを止めずに運用すること」から「よりビジネスに責任を有する」ことにミッションが変わり、CIO自身がそのことを認識し始めているという。日本企業でもこの動向はあり、具体的な社名は明かされなかったが、「デロイトトーマツのクライアントである大手エンタープライズ系企業でもIT組織の再編は進んでいる」と安井氏は述べる。

ダークデータと深層ウェブに価値が眠る

増え続ける非構造化データをビジネスに活用することが、本レポートの第二章で提唱されている。ここでは、画像やオーディオ、ビデオファイル、IoTから生成されるセンサーデータなど、これまで分析対象として隠れていたデータを「ダークデータ」と定義し、これらを先進的な技術やスキルで活用する「ダーク・アナリティクス」が重要になると述べている。
「ダーク」といえばネガティブなイメージが伴うが、これまで光をあてられなかった眠ったデータに光を与えることでより可能性が広がるという意味。小売店や流通業における買い物客のビデオ映像、エネルギー、ヘルスケア、輸送産業分野での監視カメラ映像などの実用化の例があげられている。
同様に、隠れていた次元のデータとして「深層ウェブ」をあげている。深層ウェブとは、検索エンジンや通常のブラウザではたどり着けないウェブである。そのデータ量は急速に増え、デジタル・ユニバースが拡張し44ゼタバイトに達しており、この深層ウェブの領域に非常に多くの潜在的な価値が眠っていると指摘する。

AIからマシンインテリジェンス(MI)へ

急速に発展している人工知能(AI)に関しては、米国ではVCの投資などが最も集中している分野であり、すでに先端技術領域から実用の領域で成果が生まれている。「シンギュラリティで人間の知能を超えうるか」「人間の仕事を奪うか」といった社会的な議論が脚光を浴びがちだが、このレポートで掘り下げられているのは生産性の向上などのビジネスの結果を生むための複雑な作業の自動化や、人間の思考・作業に近い形で実行する「コグニティブ」の領域だ。AIという言葉からは、厳密にはコグニティブの適用の一部しか捉えられない。

こうした背景から本レポートでは、機械学習、ディープラーニング、コグニティブ・アナリティクス、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)、ボットなど、進化しているコグニティブ技術を、より包括的に総称するものとして、「機械知能 =マシンインテリジェンス(MI)」をいう呼び方をおこなっている。

「MIは、起きた事象を分析する古い時代のデータ分析から、推論と予測という新たな世界へ組織が向かうことを助ける、コグニティブ・コンピューティングの一連の進歩を指す。得られた洞察を実行にまで落とし込むことや、タスクやレスポンスの自動化による能力は、新しいコグニティブの幕開けを示している。」(『Tech Trends 2017』P.51より)

そして企業のCIOが検討すべきテーマとして、データによる今後の事象への予測と知見を得るための「コグニティブ・インサイト」、人々と連携するための「コグニティブ・エンゲージメント」を掲げ、さらに最も破壊的なものとして、コグニティブやRPAによる自動化を意味する「コグニティブ・オートメーション」をあげている。MIの活用は、先進的なAIとしてだけでなく、定型的な業務を自動化するという意味で、経済的なインパクトは大きい。しかしそのための条件として、データマネジメントが重要となり、日本企業はこの点で課題を抱えている。「複雑化したレガシーシステムによるデータの分断」が足枷になるという懸念を本レポートでは指摘している。

複合現実(MR)の業務利用は今後の可能性

拡張現実(AR)と仮想現実(VR)で進化したデバイスに加え、センサーや人の動き、IoTによるデータを組み合わせることで、複合現実(MR)というコンセプトが生まれ、パイロット段階から実際の適用ケースに進み始めていると本レポートは紹介する。しかしここに関しては、実用はもう少し先になるようだ。

「エンターテイメントでは普及してきているVR(仮想現実)のB2Bでの活用も期待されているが、現状では、製造物の設計など仮想空間に限定的な応用にとどまる。今後IoTの技術とつながり現実空間に世界に影響するのはまだ数年先と見ている。」(安井氏)

日本では基幹システム刷新が問われる

本レポートでは他にも、システムアーキテクチャの動向として、「イネビタブルアーキテクチャ」を新しいトレンドとして紹介している。これはオープンソース、オープンスタンダード、仮想化やコンテナ技術を組み合わせることで、システムアーキテクチャの移行を行うというもの。
また、サービス化による基幹システムの再創造の考え方としての「Everything-as-a-service(XaaS)」などを、グローバルな調査に基づく最前線の動向として解説している。

こうしたサービスやアーキテクチャのコンセプトはIT部門の運用保守の課題が重く、DevOpsや自動化が未発達な、日本企業の現状の状況下で、すぐさま適用するには課題が多い。

「自動化、サービス化についての意識をもっと日本企業は高めるべき。AIは高度で手が届かないと思っている人もまだ多いが、自動化やサービス化の技術、APIなどをもっと軽く使っていきましょうというのが今回のレポートの基本メッセージ。」(安井氏)

 『Tech Trends 2017』日本版は今回が3回目となる。戦略コンサルティング会社が発表する動向調査やレポートは、膨大な調査のバックデータに基づくものだが、ともすれば抽象度が高く読み取り難いものもある。本レポートは、動向の詳しい解説に加え海外のコンサルタント、アナリストによる個人的な見解や、日本側のコンサルタントによる見解なども掲載しており、腹落ちしやすい内容となっている。150ページの大分量ではあるが、企業の事業開発、戦略担当の方には活用をお薦めする。

【本レポートの概要】
『Tech Trends 2017』(デロイトトーマツコンサルティング)

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