なぜサービスデザインシンキングは、「現代アート」のように難解に思えるのか?
「サービスデザイン」「デザインシンキング」といった言葉は、ビジネス書、雑誌、ウェブなどを日々賑わせている。決して単なるトレンドという訳ではない。特に「デザインシンキング」をベースとし、プロダクト、サービス、新規ビジネス立案のデザインを行う「サービスデザインシンキング」の手法は、アップル、Airbnb、IBMを代表例として、多くの企業で活用事例が生まれている。
では、これらの企業のようにサービスデザインシンキングを企業活動に取り入れるには、どのようにしていけばいいのだろうか?
多くの企業・人が関心を持っているにも関わらず、サービスデザインシンキングへの理解はあまり進んでいないように思える。デザイン的手法に関する知識を持たない者がデザインに関する本を読むとき、映画『スターウォーズ』の主人公の一人、ルーク・スカイウォーカーが、敬愛する師のヨーダからフォースを学ぶよう命じられた時のような気分になるだろう。いくら「考えるな、感じろ」と言われても、そもそもフォースを「感じる」ところに行き着くまでもなかなか難しいのだ。
ヨーダの遠回しな語り口はわかりにくく、ルークを混乱させた。同様のことが、専門家が語るサービスデザインやデザインシンキングについても起こっていると言えよう。専門家は練りに練って、それらの重要性を伝えようとしている。しかし、専門家が語る「専門用語」は何だかカッコよくは聞こえるものの、実際のビジネスの現場でデザイン的手法をどのように活用するのかに直結していないようにも思われる。このような事象が、サービスデザインシンキングを現代アートのように、難解なものと思わせてしまっている所以なのかもしれない。
現代アートは、美学的な解釈がいくつもあるが、サービスデザインも同様にいくつかの方法論が存在する。トレンド好きなビジネスパーソン(現代アートで例えると、美術の目利き人)がサービスデザインの方法論や事例に面白さを感じて飛びつく。しかしながらその道の専門家以外、真髄を理解することはなかなか難しい。サービスデザイナー(芸術家)は、その方法論を語るとき、主観的で曖昧な表現しか使わないからだ。サービスデザインシンキングを支持するデザインエージェンシー(画廊のオーナー)は、仲間内でその知識を語らい、サービスデザインプロジェクト(芸術作品)を大企業(パトロン・支援者)へと販売していく。内輪で盛り上がっている間は良いが、どうにもその良さが、ベースとなる知識や経験がない人たちにも客観的に伝わりやすいかというと難しいところがある。
ここまでは、ステークホルダーによる現代アートの捉え方、扱い方との類似点を述べてきた。サービスデザインシンキングは、手が届きにくい、曖昧で非常に贅沢な手法であると捉えがちであるが、みなさんにとって身近な存在であることを、このあと説明していきたい。