顧客の状況をとらえられないと、モノが買われる理由はわからない
製品・サービスは何らかの価値を提供している。先ほどのミルクシェイクの例で言えば、「片手で持て、長持ちします」、「子供がすぐにおとなしくなります」、「子供サイズで罪悪感も少ないです」というところ。それぞれ「退屈な通勤のお供が欲しい」、「あまり罪悪感を感じずに、ぐずる子供をなだめたい」というジョブにフィットしている。そう、つまり、顧客がどんなジョブを抱えているかが見えてくると、製品・サービスのどの部分を訴求すればいいかがわかってくるのだ。「ジョブとのフィットを探すのが単体の商品の場合、すべてと言っても過言ではない」と山田氏は強調する。
では、ジョブを適切にとらえるためにはどうすればよいか。題材として、山田氏は「洗濯機を何のために雇っているか」という問いを投げかけた。
「洗濯をするために雇っている」というのは、名詞を動詞に変えただけなので答えになっていない。「時間を短縮して自分の時間を作るため」というのは、洗濯が1日の大半を占める人だったらありうるかもしれないが、多くの人にとって洗濯は1つの仕事でしかなく、時短したい仕事は他にもたくさんあるだろうからふさわしくない。「衣服の汚れを落としたい。匂いを取りたい」。このあたりが洗濯機を雇うジョブとしては妥当なところになる。では、「ラッシーを作りたい」というジョブだったらどうだろう? これだけでは首をひねるかもしれないが、「インドのある村が、熱波に襲われて、大勢の人が倒れている中で、栄養のある冷たいものを大量に配らなくてはならない」という状況だったらどうだろうか。これならばありうるかもしれない。このように状況をとらえることができないと、本当にモノが雇われる理由はわからないというわけだ。
ジョブを考える3つの観点
「ジョブは顧客と状況で決まります」と山田氏は言う。「製品にニーズがありますか」と聞かれても、それだけではわからない。逆に言うと、ニーズがあるかどうかを製品軸だけで検証しようというのは無理がある。製品やモノが売れるかどうかはジョブ理論であれば解き明かすことができる。顧客と状況をとらえ、ジョブを理解すればよいのだ。
ジョブの目的は基本的に3種類あると山田氏は言う。
1つ目は機能的なジョブ。車でいうとA地点からB地点に移動するといったようなジョブだ。2つ目は感情的なジョブ。移動というよりも運転の気持ち良さを味わいたいといった自分の感情を満足させるジョブだ。3つ目は社会的なジョブ。自分がどう見られるかについてのジョブだ。たとえば、車自体が好きという訳ではないが、周りからセンスがいいねと言われたい人は、機能や自分の好みより周りの目から車を選ぶことがある。
山田氏は「以上の3つの目的からジョブを考えると、製品のスペックは必要条件にはなるが、最終的に製品を選ぶ際の決定要因は、実は感情的なものだったり社会的なものだったりするのではないか」と指摘する。
機能面での違いを認識し難くなってくると(どんぐりの背比べになってくると)、「強いて言うならばこっちの方が気持ちが上がるから」と感情的なジョブが最終決定要因になってくる。
実際のスペックとしては差があっても、そこには顧客が価値を感じる差がないというのが正確な表現かもしれない。要は、多くのモノが過剰品質になっているのだ。そうした中で、顧客の心を左右するものは、より感情的、社会的なものにシフトしてきている。
この3種類はB2Bにおいても当てはまる。
感情的なジョブで言えば、企業で採用するものだったとしても、現場のエンジニアの好みで選ばれるものは多々ある。高額な測定装置等は意外と現場の一声で決まっていたりする。
社会的なジョブに関して言えば、工場の生産ラインの装置を買う担当者のジョブは、上司や現場から文句を言われないことが一番強いジョブだったりする。この場合、後で文句を言われないようにするために大手企業に頼むという解決策が選ばれる。ベンチャー企業がどんなに良い提案をしても、商談を得られないのは、こうした担当者の心理によるものだ。
このようにB2Bにおいても、3つの観点で顧客のジョブをとらえることが有効だ。