noteの成長の要因は“変わらないところ”にフォーカスすること
冒頭で、モデレーターを務める藤井氏は、「日本ではDXなどデジタルやテクノロジーに関する話が出てくる一方で、ユーザーにどのようなサービスや経験価値を提供するのかという思いが希薄で、UXへの感度も低い」と語り、「それが日本のデジタルサービスの遅れにつながっているのでは」と問題を提起した。
では、順調にサービスを拡大している「note」および「WeChat」では、どのように顧客への提供価値やUXを作ってきたのだろうか。また、どのような思考法や哲学をもってアプローチし続けているのだろうか。
その問いに対し深津氏は、「事業のミッションのようにわかりやすい言葉で大切なものを定義することから始まる」と述べる。「noteの場合は『誰もが創作を始めて続けられるようにする』とビジョンを掲げ、『誰もが』がターゲット、『創作を始める』がアクション、そして『続けられる』がその後のステートと、ビジョンにユーザーに提供したい価値が全て集約されている」と語った。
noteは直近の数年で10倍以上の成長をみせており、表面的なサービスは随時変化してきた。しかし、noteのファンダメンタルズ(基礎的)な「読んで楽しい・書いて楽しい」という提供価値は、ユーザーが100人でも100万人でも変わらない。つまり、事業をぶらさずに成長させるには、「ユーザーや規模が大きくなっても“変わらないところ”にフォーカスすること」がコツだという。それによって、ユーザー数が増えて作るものが変わったとしても、提供価値は変わらずにいられるというわけだ。
しかし、藤井氏は「ユーザーのニーズはサービスの成長によって変化していきやすい。そうした変化に対してビジョンに立ち戻って考えることで、サービスを更新し続けながらもブレずに成長できるのだろう。しかし、変化が激しい時代に、キャッチアップが上手くいかないことも多いのではないか」と疑問を呈した。
深津氏は「確かにサービスの作り方次第ではあるかもしれない」と語り、「キャッチアップを成功させるには、ユーザーと直接会うなどで声や要望を聞き、理解することが大事。加えて自分がサービスのユーザーとなることも有効」と語った。実際、深津氏は15年にわたってブログに投稿し、インフルエンサーとしても活発に活動している。その中から「ユーザーである自分が欲しいモノ」を見極め、トレンドの変化を自分ごととして感じ取り、サービスへとフィードバックさせている。自分の体感と、アンケートなどに現れる客観的なユーザーの変化の両面からアプローチし、ブレないようにしているというわけだ。
そして、サービスの全体感を捉えるために、深津氏は、「点や線としてのユーザーを意識しすぎず、『サービスプラットフォーム=エコシステム(生態系)』として考えている」と語り、「森や畑、海のように、環境とルールを定義すれば、自然と様々なモノが育ち、流れ、循環してコミュニティを形成していく。細部のデザインやコントロールにこだわりすぎず、大きなルールを作ることに注力している。たとえば、どうしたらユーザーが攻撃的ではなくポジティブな内容を投稿するようになるか、小手先のバズりではなく自分の思いを伝えることやファンを獲得することに注力できるか、と考えている」と説明した。