触媒となりサプライチェーン全体に寄与したIKEAカタログプロジェクト
トム・ボスハート氏が19歳の時にオランダで立ち上げ、これまで22年間運営してきたExcept Integrated Sustainability(以下、Except)は持続可能な社会の基盤を作ること使命としている。彼らは、企業が生み出す「モノ」を社会全体に影響を与える「触媒」に変え、社会を持続可能なものに作り直してきた。
Exceptが8年前に担当したIKEAカタログのサステナビリティ化プロジェクトを知ると、ボスハート氏がいう「触媒」の意味がわかりやすいだろう。
IKEAのカタログは当時、世界で一番多く出版される印刷物だった。2番目のハリーポッターシリーズの10倍という規模である。カタログは販促ツールであるから、IKEAは顧客に罪悪感や不快感を与えないように配布したい。そのためすでに大手コンサルタント会社に依頼し、多くの再生可能エネルギーを利用し、水の使用を減らすなど、悪影響を低減する試みを行っていた。しかし依然として、カーボンフットプリントをはじめ、悪影響が大きかった。
IKEA側は当時、カタログのサイズ、ページ数、コンテンツなど、カタログ自体に変更を加えることを望まなかった。そこでExceptはカタログのライフサイクルの分析を行い、制作に関わる企業を調べ、IKEA内部の部門がカタログ制作過程に与える影響を調べてマッピングを行った。そして、カタログは世界中の印刷会社、製紙会社、製本会社、インクメーカーなど何百もの企業に入札情報を出してもらい、その年の発注先を決めていることに目をつけた。
Exceptはエネルギー使用、再生可能エネルギー、CO2排出、無害廃棄物、水の消費、従業員の休憩時間や、出産休暇など、社会的側面も含めた持続可能性に関する300程度の項目を定め、それを発注先に答えてもらうためのソフトウェアを開発した。入札したい企業にとっては手間ではあるが、情報を提供した企業は自動的に無料でサステナビリティレポートを作成できるというメリットがある。そしてIKEAの基準で各企業を緑、黄色、赤にランク付けし、緑であれば入札可能、黄色であれば持続可能性を向上するための投資と改善を約束すれば入札可能とした。つまりIKEAのカタログ制作の仕事を得ようとすれば、自動的に持続可能性を意識せざるを得なくなる状態にしたのだ。
IKEAと取引をしたい企業は、IKEAだけを相手に仕事をしているわけではなく、新聞、雑誌、本、さまざまなものを作っている。持続可能性を重視した企業の取り組みはIKEAだけに還元されるわけではない。その結果、最初の1年で業界全体へのプラスの影響は、IKEAがカタログを制作することで排出するカーボンフットプリントをはるかに上回った。285,000バレルの石油を節約し、大量の水の使用を削減し、従業員の労働環境などさまざまな社会的な側面を改善した。これはIKEAが段階的にカタログをデジタル化し、昨年廃止するまで続いた。つまりIKEAのカタログは業界全体を変える「触媒」となったのである。