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事業創造に挑む成熟企業の両利き実践論

事業創造に挑む実践者が抱える“3つの葛藤”──3つの「リフレイミング」でパラダイムシフトを起こす

第2回

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事業創造の推進者である“実践者”

 社員主導・ボトムアップ型の事業創造を行う際にキーパーソンとなるのが「実践者」「支援者」「経営者」です。「経営者」の葛藤を紹介した第1回に続き、第2回となる今回は、事業創造のキーパーソンである「実践者」について取り上げます。日経BP総合研究所が2020年9月に実施した調査「コロナ禍における新事業・新技術に関するアンケート」によると、新事業を創出する際の課題として、半数を超える55%が「適切な人材の投入」を挙げており、多くの企業で「新しい事業を生み出す人材が少ない」ことを課題とし、「実践者」となる人材の発掘と育成に力を注いでいます。

 様々なメディアで新規事業の“成功事例”として紹介されている事業創造の実践者は、失敗を恐れず行動し、社内外のプレッシャーをはねのけて新規事業を生み出した“猛者”ともいえる方々です。ただ、こうした事業創造の猛者があらゆる組織にいるわけではありませんし、猛者でなければ事業創造できないわけでもありません。実際に我々がお会いする成熟企業の実践者は、根っからのイントレプレナースピリットを持ち合わせた人材ではなく、何かのきっかけで新規事業に挑むことになった、いわば新規事業ビギナーです。事業化の可能性が見えない段階では、既存事業と掛け持ちをしながら取り組まれている方も多くいます。

 本記事における実践者とは、新規事業の世界に足を踏み入れ、事業化のステージの手前もしくは、その先でもがいている方々です。そんな方々を自社にとっての事業創造の推進役として覚醒させていくポイントと、具体的な方法についてお伝えしていきます。

既存事業と新規事業における仕事の進め方の違い

 既存事業でキャリアを積んできた実践者が新規事業に携わるようになると、その思考や行動様式の違いに戸惑いを覚えることがほとんどです。なぜかというと、既存事業と新規事業では仕事の進め方が大きく異なるためです。

 その違いを、キャリア教育などで紹介される「Will-Must-Can」モデルを基に説明します。

 既存事業では、解くべき課題(Must)があり、その課題を解決していくことが仕事の主流です。つまり、取り組むべき課題が明確で、課題解決を通じて様々なスキル(Can)を身につけ、その仕事を通じて自分なりのやりがいや仕事観(Will)が醸成されていくのです。

 一方、ゼロイチと言われる新規事業においては、解くべき課題は用意されていません。会社から「ヘルスケア」や「食」といった大きなテーマが与えられることはありますが、そこからどのような課題を解くための事業にしていくかは、実践者本人に任されます。興味・関心・使命感といった実践者自身の動機(Will)をベースに、課題の探索活動がスタートするわけです。そうした活動の中で、解くべき課題(Must)を見つけ、どのようなリソース(Can)を使って解決していくかを考えていくのが、新規事業の仕事の進め方です。自身のWillを起点としながら課題を見つけていくことは、多くの実践者にとって初めての経験で、戸惑いが生じるのは当然ともいえるでしょう。

実践者の発想や行動の転換の重要性

 こうした仕事の進め方は、頭でわかっていたとしても、簡単に実践できるわけではありません。多くの実践者は、既存事業で培った仕事の進め方で新規事業を進めていこうとしてしまいます。具体的には、課題発見よりも課題解決に意識が向いてしまったり、時間をかけてしまったりするのです。多くの新規事業が失敗に至る原因もここにあります。

 優れた事業アイデアには「良い課題」と「(それを解決し得る)良い解決策」の双方が必要ですが、課題発見より課題解決に力を入れてしまうと、良い課題を見つける前に月並みな課題を設定してしまいがちです。課題の解像度が荒い状態では、顧客が求める事業やサービスは生まれません。凡庸で取るに足らない事業アイデアではなく、顧客が心から望む事業やサービスを育むには、実践者のパラダイムシフトが必要であり、そこに特有の難しさがあります。この実践者のパラダイムシフトを促すためには、実践者の抱える葛藤を理解し、それを乗り越えられるよう支援する必要があります。

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この記事の著者

菊池 龍之(キクチ タツユキ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

横山 佳菜⼦(ヨコヤマ カナコ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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