様々な経営課題と結びつくDX カギを握る「データ」
京セラグループもグローバルサプライチェーンで生き残るために、2030年度にCO2排出量の46%削減(2019年度比)の長期目標を掲げており、企業成長を維持しながらも、電力会社、省エネ、再生可能エネルギー導入による排出量削減施策を推進している。特に、再生可能エネルギーについては事業の一つとして生産に取り組んでおり、グループ内で30%程度の自前調達が可能になっているという。
また、省エネによる削減については、電力量の多い設備に対する省エネ施策としてDXが進められている。その第一歩として取り組んでいるのが、「エネルギーの見える化」だ。会社全体や工場単位はもとより、設備や建屋、さらには製品や部品、工程ごとにCO2排出量を月次実績で把握しようという取り組みで、数値を可視化・共有することで効果的にPDCAサイクルを回すことを意図している。そして、そのためにはDXによるデータ取得がカギを握る。
CO2排出量の算出においては、従来は「全体の活動量 × 排出原単位」という2次データによるCFP(カーボンフットプリント)の算出が行われてきたが、それでは製品や工程単位での排出量を明らかにするのは難しい。そのため、「排出量が多いのはどのポイントなのか」「どこの工程で削減が必要なのか」を把握するために、詳細な1次データでCFPを算出するのが望ましいという。
こうなると、システム設計そのものの在り方が重要となる。たとえばエンジニアリングチェーンを司るPLMなどのソリューションでは、製品の設計や製造工程を見直すことで排出量の削減を行う。また、ERPやMESでも、サプライチェーン全体のCO2排出量を把握・削減するアプローチを行うだけでなく、エンジニアリングチェーンにフィードバックして改善をすることで、さらなる改善施策につなげていく必要がある。そして経営層は、これを「炭素会計」として把握し、財務会計や管理会計など従来の会計機能とともに経営の指針としていくのである。
谷口氏は、「炭素会計のイメージ」としてグラフにした他社の例を提示した(下図)。縦軸が「製品」、横軸が「工程」で、丸が大きい部分がCO2排出量の多いポイントとして表示されている。ここで重要となるのは、単に排出量の多い少ないをみるだけではなく、財務諸表や部門別の業績評価に落とし込んでいくこと。たとえば、排出量の多い製品は炭素税の対象となる可能性が高く、その分を原価に上積みした指標で経営状態を把握する必要があるというわけだ。
製造業のDXは今や、現場の改善や効率化だけでなく、事業モデルの変革やサステナビリティ推進においてもカギを握っている。谷口氏は、「もちろん、現場改善の視点も重要であり、まずはスモールスタートしてアジャイル型でプロジェクトを進めてみてもよい。また、データ分析・活用のスキルを身につけた人材育成にも取り組んでいくことが必要」とした上で、「ただし、それらが部分最適化に留まる可能性もあり、DX推進を最後までやり切るためにはトップダウンのアプローチも必要」と、改めて強調し、セッションを終えた。