すでにあるものを“習う”日本の教育、文化を“更新する”近代ヨーロッパの考え方
その後の藤幡氏は、ヨーロッパでの対話や体験を通して、ヨーロッパの近代化の過程で確立した「誰も見たことのない新しい世界観を提示する」というアーティストの役割を知ることとなった(詳細は前回のインタビュー参照)。
古くからある文化を守るという意識は、日本にもヨーロッパにもあります。パリのルーブル美術館に古い彫刻や絵画がたくさんあるのは、そういうことですよね。ただ、文化は更新していくものだというのが、近代以降のヨーロッパの考え方です。
日本の場合、江戸時代に主だった概念のほとんどが出揃って、それが更新されないまま今に至っているというのが、僕の認識です。だから芸の基本は習い事。『習えばできるようになる』というものなんですね。
それは芸大であっても同じで、古いタイプの先生と話をしていると、美というものはすでにあって揺るがないものであり、学生はこれまで保たれてきた美を学び、それを再現できるようになるべきだという考えなんです。私たちが新しく発見したり創り出したりするものだとは思っていないんですね。実際、明治から終戦直後までは、お手本をそっくりそのまま模写するということをずっとやっていたらしいです。さすがに昭和20年代の後半には『それではまずい』という議論になって、カリキュラムが随分変わったと聞きますが。芸術に限らず、柔道でも書道でも基本はそうでしょう? 先生が朱筆で『ここをちょっと丸くして』みたいな指導をするけれど、どうして丸くしなければいけないかを教えることはしません