なぜ「コープこうべアプリ」は“コミュニティ”化したのか
こういったゆめみの支援を受けた成功事例が、兵庫県を中心に運営しているコープこうべの「コープこうべアプリ」である。生協の理念を体現するプラットフォームアプリとして展開しているもので、次世代ユーザを作ることを目的に、ユーザ中心に事業展開をしていっている。2017年のリリース以来、若年層の利用が増え、継続利用につながり、ロイヤルユーザが増えるといった成果をもたらしている。
「コープこうべアプリ」のポイントは以下である。
- コミュニケーション変革
- データ活用・業務効率化
- 体験価値の向上・売上増加
1つ目は、コミュニケーション変革である。コープこうべは事業の柱の1つに宅配がある。以前は組合員と職員の会話を通じて注文が発生していたが、デジタル化する際にECサイトのようにしてしまうと、味気なさが際立つ。そこで、「組合員と職員の垣根をなくす」を掛け声にし、それを視覚的に訴求していくために、サービス/メニューを「ともだち」と定義し、宅配の注文はキャラクターとのトーク形式で行うなどと、随所に人間味を感じる演出を行った。
また昔ならご近所さん同士でやっていた井戸端会議をできるような場として「地域コミュニティ」を設定している。例えば、コープ商品を使った離乳食レシピを教えあったり、近所のお店の情報を交換しあったり、近くのお出かけスポットを教えあったりと、SNSでは居住地を知らせることになるので発信しにくい内容を発信しあえる、ご近所ならではの新たなつながりを作る場と設定している。
2つ目のポイントはデータ活用と業務効率化である。家で食事作りをする方は、献立を考えるのにストレスを抱えているということがわかったため、コープこうべでは最大1週間分の献立を自動で作成できるようにし、かつその献立に必要な材料を注文できるという「献立アシスト機能」を提供した。これによってユーザはストレスを軽減できる。データ活用によって顧客体験を向上させる好例だ。
また、このアプリを通じて、宅配時の留守率を可視化したところ、それまでは配達員の感覚で5割程度だと認識していた留守率が、実は4割だったとわかった。留守宅には宅配物にドライアイスを添えているが、ドライアイスの原価が高いために、1割減はインパクトのあるコスト削減につながっている。データの可視化によってコスト削減のつながった取り組みである。
3つ目のポイントは、体験価値の向上と売上増加に関して。生協はそもそも「協同組合」であり、「組合員が活動(運営)に参加できること」は、生協の強みである。しかし、高齢化による参加者の減少や、子育て層が活動に参加する心理的ハードルの高さから、もともと強みだった「活動への参加」が、課題にもなっていた。それをアプリによって解決できるようにしたのが、「投票機能」である。
ユーザは新機能の名称や、商品採用に関して、「A、Bどちらの案が良いか」の投票に、アプリを自宅のソファーで寝転びながら操作することで参加できる。投票結果やユーザコメントを店頭のポップなどに採用することで、組合員は店舗作りにも参加することになり、新たな来店動機にもなる。
生協は店舗サービスと宅配サービスの両方を手掛けているが、両方を使うユーザユーザはロイヤルティが高い。ユーザはアプリを通じて生協運営に参加することで、コープこうべのファンになっていき、結果的に顧客単価の増加、売上貢献にも寄与する取り組みになった。
「コープこうべアプリ」は、ビジネスの変革をも、もたらした。地域の助け合いのプラットフォームにもなったのである。
これは、ゴミ出しや玄関・屋外の掃除など、何か困りごとを抱えて助けを依頼したい人と、ご近所さんを手助けしたい人のマッチングをするプラットフォームである。助けを依頼したいユーザは高齢者が多いことから、アプリだけでなく電話による依頼を可能にし、アプリでマッチングして、現地で地域の困りごとを解決していく、生協“ならでは”の事業になった。
こういった取り組みに参加するユーザは、やはりコープこうべに対するロイヤルティが高い。コープこうべにとっては価値ある取り組みになったため、今後は対象エリアを拡大していく取り組みだという。
染矢氏は以下のように語り、講演を締めくくった。
「ユーザを主人公にストーリーを考えていく中で、人間中心設計のプロセスを生かしながら、 ユーザさんに対して、その企業が持つ強みにより、“ならでは”のサービスで価値提供していく。これがDXには重要です」