SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

意思決定のサイエンス

成功しているリーダーが実践する矛盾への向き合い方──『両立思考』監訳者に聞くパラドックスマネジメント

【第6回】ゲスト:京都大学経営管理大学院 関口倫紀氏、アルー株式会社 中村俊介氏

  • Facebook
  • Twitter
  • Pocket

 今回のゲストは、関口倫紀氏(京都大学経営管理大学院 副院長 兼 大学院経済学研究科 教授)と中村俊介氏(アルー株式会社 エグゼクティブコンサルタント)。二人は『両立思考 「二者択一」の思考を手放し、多様な価値を実現するパラドキシカルリーダーシップ』(日本能率協会マネジメントセンター)の監訳者を務め、産学連携で社会人向けの「パラドキシカル・リーダーシップ養成講座」を企画・提供している。本記事では、両立思考で組織をマネジメントするとはどういうことか、特にリーダーの行動の観点から解説をいただき、リーダーが両立思考を身につける方法や組織に両立思考を展開していくポイントについても聞いた。

  • Facebook
  • Twitter
  • Pocket

「どちらか」はなく「どちらも」を選択するリーダーシップのあり方

──まずは関口先生が提唱される「パラドキシカル・リーダーシップに基づく組織マネジメント」の概要をご紹介ください。

関口倫紀氏(以下、敬称略):経営学においてパラドックスとは、「互いに関連しつつも対立する要素が同時に存在し続ける状態」を指します。

 パラドックスは戦略レベルで生じることもあれば、企業体やチーム、個人など、様々なレベルに存在します。そしてこれらは互いに独立しているわけではなく、相互依存の関係にあります。

 パラドックスがあるところには「テンション(緊張関係)」が生じます。これまでの経営学は、テンションを避けてどちらかひとつを選ぶ「択一思考」に焦点を置く傾向がありました。それぞれの選択肢の長所や短所、利益やコストを比較して一番良いものを選ぶというような考え方ですね。

 ですが、片方を選ぶことによってもう一方のメリットを失うことになりがちです。むしろパラドックスをチャンスと捉え、「両方実現できるとしたら、どんなやり方があるだろう?」と問い、それらを分化したり統合したりを繰り返して物事を発展させていく。これが、パラドキシカル・リーダーシップによる組織マネジメントの全体像です。

パラドキシカル・リーダーシップ
京都大学経営管理大学院 副院長 関口倫紀氏の提供資料を参照し、編集部にて作図/クリックすると拡大します

──この図の中で特にポイントとなるプロセスはありますか。

中村俊介氏(以下、敬称略):「受容」と「分化」と「統合」で構成される「複雑性統合力」です。まず、物事をどちらか一方だけしか選択できないという考え方を脱し、パラドックスを「受容」する必要があります。両方の選択肢が共存する状態が自然であるという前提から入った上で、それらをしっかり分けて吟味(分化)したり、選択肢同士のつながりや上位概念について考えたり(統合)、その両方を行ったり来たりする力です。

関口:ポイントは「動的平衡」という考え方で、2つの要素の間を常に動きながらバランスをとっていくことです。結果として、クリエイティブなアイデアで両方を満たす「ラバ型」と呼ばれる「両立」にたどり着くこともあります。しかしそのような方法は簡単には見つからないので、「綱渡り型」と呼ばれる、少し右に寄ったら次は左に寄ってバランスをとるというような形で両立していくことが多いでしょう。

──書籍『両立思考』ではパラドックスという状態を、どのように組織で活用するかというマネジメント全般について解説されていますね。その中でも、特にリーダーシップに焦点を当てた講座を開発したのはなぜですか。

中村:マネジメントや意思決定の方法論だけでなく、リーダーシップスタイルも含めたリーダーのあり方全体にアプローチしたかったためです。様々な企業で管理職研修をさせていただいていると、「ぐいぐい引っ張る率先垂範型は時代遅れで、メンバーを主役にする奉仕型の方が今の時代に合っている」と考えるリーダーに出会うことがあります。

 そう考える方にお話を聞いていくと、それを意識しすぎるあまり、自信を持って前に出て引っ張るべき場面でも「メンバーへの押しつけになるのではないか?」とためらってしまうということが起こっているようです。

 しかし本来、リーダーには率先垂範と奉仕の両方が必要です。どちらが正しいかという択一の問いではなく、両立の問いに向き合うべきです。

 パラドックス研究の中に「パラドキシカルリーダー行動」という概念があるのですが、一見矛盾するような行動を両立させることで、メンバーの創造性やパフォーマンスを引き出すことができるとされているものです。

リーダーに求められるパラドックスの両立
資料提供:アルー株式会社/クリックすると拡大します

 まさに先ほどの率先垂範と奉仕の考え方はこの中のひとつです。リーダーシップや経営のスタイルについては、片方に行き過ぎた時代の風潮を引き戻すために、その反対側のスタイルが強調されることがあります。

 しかしこれを「どちらか正しいスタイルで一貫させなければならない」という択一思考で捉えると、実は望ましいリーダーとしてのあり方から離れてしまうことがある。「これまで言われてきたことと、この新しいメッセージは実はパラドックスなのではないか。どう両立したらよいか」と両立思考で捉えることが、現実をよりよくすることがあるのではないでしょうか。そんなこともお伝えしたくて講座を実施しています。

中村俊介
アルー株式会社 エグゼクティブコンサルタント/京都大学経営管理大学院 客員准教授 中村俊介氏

会員登録無料すると、続きをお読みいただけます

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

次のページ
パラドックスへの対極な感情を受け入れる

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • Twitter
  • Pocket
意思決定のサイエンス連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

やつづかえり(ヤツヅカエリ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • Pocket

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング