「さるぼぼコイン」でインバウンド需要を活性化させる
「アベノミクス以降、経済は本格的再生の期に入ったというが、地域の実体経済にとって実感はない。これまでの預金と融資による通常の預貸業務だけでは、地域の活性化は限定的。リレーションシップバンキングとCS戦略を進めてきたが、新たな事業モデルが必要と考えた。」
こう語るのは、飛騨信用組合理事長の大原誠氏。昨年からワーキンググループを設置した。そのきっかけはトーマツベンチャーサポートの提案だったという。
高山市は2016年の観光客数が前年比4%増の約450万人、外国人観光客の宿泊者数は同15%増の約42万人と過去最高水準を記録し、高まるインバウンド需要の対応も迫られている。今回飛騨信用組合が発行する「さるぼぼコイン(仮称)」はスマートフォンアプリ上で利用できる電子通貨で、岐阜県の飛騨・高山エリアの地域限定で利用可能な地域通貨。今回の実証実験の後の秋以降の実用化では、こうしたインバウンド需要を喚起していくのが狙いだ。
トーマツベンチャーサポートの大平貴久氏は「地域金融を変えていくための提案を各地におこなってきたが、二の足を踏む金融機関が多かった。地方は電子決済が遅れており、クレジットカードすら定着していない。」と語る。
電子決済の普及を阻む要因は、手数料とコストだ。クレジットカードであれば手数料は5%以上が事業者にのしかかる。さらにカードリーダーなどの機器などの初期コストも馬鹿にならない。
「さるぼぼコイン」はこの2つを克服できる。店側はQRコードを設置するだけで、客の側がスマホアプリでそれを読み取る。
手数料は1%台を目指す
加盟店側の手数料については今後の検討だが、「現在のクレジットカードなどの手数料の3〜3.5%からは引き下げ1%台を目指したい」と飛騨信用組合の古里圭史氏は語る。手数料の低減が可能になるのは、同社の電子地域通貨のプラットフォームの技術とノウハウがあるからだと言う。
同社はこれまでも、O2O(Online to offline)領域のスマホによる店舗誘導、運用やセキュリティに関する実績を持ち、通常の金融系基幹システムの構築費用を従来より格段に抑えられるからだという。
さらに今後は、決済プラットフォームにブロックチェーンの技術を導入するための検証も行う。ブロックチェーンについては、株式会社デジタルガレージが運営する「DG Lac」およびカナダのBlockstream社が共同開発する、次世代ブロックチェーンプラットフォーム技術の検証を行う予定。
今回の「さるぼぼコイン」実証実験の概要は以下となる。
- 対象者(利用ユーザー):飛驒信用組合の全職員(約230名)
- 対象店舗:EaTown(イータウン)飛騨高山、でこなる横丁(高山市)、やんちゃ屋台村(飛騨市)
- 実証実験期間:2017年5月15日(月)から約3ヶ月間
今回の実証実験で発行される。「さるぼぼコイン」の総額は600万円。飛騨信用組合の職員230名の賞与の一部を充当させる。
仮想通貨と何が違うか?
今回の電子地域通貨は、現在話題になっているビットコインなどの仮想通貨とどう違うのかを会見後に、飛騨信用組合の古里氏に聞いてみた。
「資金決済法の中の仮想通貨は、不特定のモノに対して運用でき不特定の相手に購入や売却が出来るというもの。今回の場合は不特定ではなく加盟店を対象にする。
仮想通貨ではなく前払い支払手段であり、発行者は飛騨信用組合。仮想通貨は発行者や管理するものは必ずしも存在しない。またビットコインのように相場によって変動するものではなく、日本円と等価でやりとりをする電子通貨となる。」(古川氏)
発行主体が、飛騨信用組合であることで、今後たとえば外国人観光客向けの鉄道や宿泊施設、商業施設と連携して「さるぼぼコイン」でキャンペーンをおこなうなどの施策が可能になる。こうした用途を考えると、ボラティリティのある仮想通貨よりも、交換レートが固定された地域通貨の方が適しているという。
地域通貨の試みは、他県でも観光通貨や地域振興券、イベントに即した実証実験などはあるが、観光客だけでなく地域住民を対象にしたものはまだまだ少ない。また「10年ほど前に“紙の地域通貨ブーム”が存在したが、その時は地域の活動に奉仕するための貢献の目的が強いものだった。」(大平氏)
今回の、電子地域通貨の取り組みが、インバウンド、地域創生、フィンテックなどの動向の中で、どのような成果をもたらすかが注目されるところだろう。