ものづくりの指標は「Outcome Over Output」へ
――世界で起きているものづくりの変化、潮流からお聞きできればと思います。
曽根原春樹氏(以下、曽根原):シリコンバレーでさまざまなテクノロジーの変遷を見てきましたが、もっとも大きな転換点だったと思うのは、やはりスマートフォンの登場です。現在は、我々の人生のありとあらゆる場面にスマホが入り込み、多くの人にとってスマホがないと生活や仕事ができない状況が当たり前になりました。その結果、ソフトウエアプロダクトが人類史上これまでにないほど身近になり、企業のものづくりも完全にソフトウエアプロダクト中心に移行しています。
――ソフトウエアプロダクト中心になると、ものづくりはどう変わりますか。
曽根原:ただ単にスマホに載せるソフトウエアプロダクトを作りさえすればいいかと言えば、もちろんそんなことはありません。以前のような「いいものを作りさえすれば売れるだろう」というプロダクトアウトの発想がまったく通用しない世界に変化しています。
シリコンバレーに代表される成功企業のアプローチは「Outcome Over Output」という言葉に端的に表現されています。彼らがフォーカスしているのはプロダクトという「アウトプット」ではありません。そのプロダクトを通じて人々の生活や仕事の仕方がどう変わるかという「アウトカム」なのです。
――では「アウトカム」を具体的に語るとすれば、どのように表現できますか。
曽根原:ひとことで言えば、ユーザーにとって良い意味での「行動変容」が起きたかどうかです。そのプロダクトを通じてユーザーの行動が変わり、プロダクトが多くの人に受け入れられ、ユーザー一人ひとりの行動変容が積み上がることで、世界がどのように変わるのか。シリコンバレー企業がフォーカスしているのはそこです。
成功しているプロダクト企業は、どこも「世界はこう変わっていくべきだ」というしっかりした「ビジョン」を持っています。そして、その世界を実現するにはユーザーの行動がこのように変わっていくのが望ましいというのが「アウトカム」です。プロダクトがどうあるべきかという「アウトプット」は、そのような順番で考えていった後に導き出されます。
まず「ビジョン」があり、次に「アウトカム」があり、最後に「アウトプット」がくる。言い換えるなら、「アウトプット」としてのプロダクトは「ビジョン」や「アウトカム」に示される変化を起こすための仕組みや手段であるということです。
――ソフトウエアプロダクト中心のものづくりで、なぜ「アウトカム」が重要なのか。また、その特徴はどんな点にありますか。
曽根原:ソフトウエアプロダクト中心のものづくりでは、一回作って終わりではないということ、継続的に進化し続けなければならないということが重要です。逆に言えば、それができるのがソフトウエアの強みでもあります。ハードウエアは一度作ってしまえば終わりでなかなか変更ができませんが、ソフトウエアはいろいろな方法で進化し続けることができます。
ユーザーに寄り添い、生活に溶け込むことで、選ばれ、使われるようになる。使われた分だけデータというフィードバックが得られるから、ターゲットユーザーに価値をもたらす方向に一層進化できる。その結果としてビジネスとしてもスケールするサイクルが回り出す。この考え方にどう適応できるかが問われているのです。