背景にあるのは、米国でのFinTechの波が日本に影響を与えていること。それによりこれまで仮想通貨に対しては静観していたような金融機関が、取引や送金のシステムとしてブロックチェーンに対して注目する動きを示していることがあげられる。 もうひとつは、このブロックチェーンを、既存の企業の情報システムに導入することでイノベーションを図ろうという、新しい取り組みが出てきたことである。
現時点で、そういった発表を最も積極的におこなっているインフォテリアとテックビューロが、「FinTech Forum」と題する記者発表会を1月14日におこなった。
インフォテリアは、EAI/ESBという企業システムやデータ連携のソリューションをXMLベースで自社開発し、情報を「つなぐ」ことに特化してきた企業。代表取締役社長の平野洋一郎氏が、ブロックチェーンに着目したきっかけは、2年半前にシリコンバレーの「Yコンビネータ」のDemo Dayに参加した際、FinTech系スタートアップを目にし印象づけられ、その後平野氏の現在の拠点のシンガポールでの金融関係者から聞いた情報で可能性を確信からだという。また、かつてエンジニアとしてXML技術でスタートした平野社長は、ブロックチェーン技術でのスタートアップを果たしたテックビューロの朝山貴生社長に、共感を感じるという。
テックビューロのmijinを、インフォテリアのASTERIAと組み合わせることで、既存システムにおいてノンプログラミングでブロックチェーン技術を使うことが出来、様々な産業で改ざんが許されないシステムの構築が可能になります。金融IT革命に貢献していくと同時に、製造(ManuTech) 医療(MediTech) 流通(TransTech) 公共(GovTech)などの領域に適用していきます。(インフォテリア 平野社長)
プライベート・ブロックチェーンの可能性
テックビューロが開発する「mijin」は、プライベート・ブロックチェーンと呼ばれる。 ブロックチェーンは、複数のコンピュータ(ノード)が、取引の記録を暗号化しブロックという単位で形成し、つないでいくP2P型の記録台帳。そのノードのネットワークをオープン型ではなく、クローズにして、金融などの特定業種の情報システムに応用しようとするものが、プライベート・ブロックチェーンだ。では、このプライベート・ブロックチェーンが企業にどのようなメリットをもたらすのか?
現在、金融機関が関心を持っているのは、ビットコインで発明された改ざんできない情報の記録の仕組みを、企業間やグループで導入することで、整合性・可用性を保ち、ダウンタイムがゼロのシステムをつくることだ。テックビューロの朝山社長によれば通常の銀行のシステムであればAPIベースの開発により、構築に関わる工期も人件費も劇的に下げられるという。
またブロック・チェーンは取引記録を、P2Pネットワークの中で承認し確認するプロセスが存在するため、取引確認に時間がかかるという「10分の問題」がある。ブロックチェーンはひとつのブロックを100%確定するのに時間がかかるが、mijinはプライベート型なので各ノードは内部のコンピュータのためその時間は短縮でき、金融分野で利用可能になるという。
ではブロックチェーンは、IT分野でここ数年注目されてきた「分散処理データベース」と何が違うのか?
分散型のデータベースとどう違うのかという質問は毎日受けます。データベースは数字は修正・変更できますが、修正・更新は出来ず改ざん不可能。これによって整合性が保てます。勘定系にネイティブな記録台帳のため、システム監査の費用も下がります。(テックビューロ 朝山社長)
堅牢性、可用性、整合性を保証するブロックチェーン技術は、金融分野以外にも、「取引」をともなうEC、ポイントカードやトレーサビリティを必要とする流通分野にも応用可能だという。また現在ではあまり語られることが少ないが、IoTにおいても有効だという。これまでは「あえて情報発信を控えてきた」と語る朝山氏。今後は実証実験を踏まえ、夏にはオープンソース版を発表するという。
テックビューロは他にもOKWAVE、SJI、フィスコなどと提携し、インフォテリアは実証実験プラットフォームを提供するさくらインターネットと協業するなど、ブロックチェーン・アライアンスは進んでいる。こうした動きが、今後どのような実を結ぶのか、FinTechの日本への波が本格化するかどうかを占うためにも目が話せないところだ。