人がモノを買うことは「雇う」ということ。「ミルクシェイク・ストーリー」からニーズの本質を知る

第2回

クレイトン・クリステンセンの新たなイノベーションの理論「ジョブ理論」を解説するINDEEの津田真吾氏の連載の第二回。今回はこの理論の真髄である「伝説のミルクシェイク」のストーリーから、「ニーズ」について紐解きをおこないます。

[公開日]

[著] 津田 真吾

[タグ] クリステンセン 事業開発 ジョブ理論

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前回の記事ではジョブ理論が活用されている様々な場面を述べた。組織やビジネス、商品を、顧客中心に変えていくにはジョブ理論が効果を発揮しそうなことはご理解頂けただろうか。今回は、ジョブ理論が「理論」として紐解く対象について解説したい。その対象は何かと聞かれれば、「ニーズ」だろう。

簡単にモノが売れなくなっている時代に住んでいる私たちだからこそ、「ニーズ」という言葉には特別敏感になっているのではないだろうか。しかし「ニーズ」とは何か尋ねると、多くの人は答えに困るようだ。どうやら私たちは、よくわからないまま「ニーズ」というものをビジネスの重要な部品として扱ってしまっているようだ。だがクリステンセン教授の「ジョブ理論」によると、ニーズには「理論」が存在するという。

顧客はなぜミルクシェイクを買うのか

とあるファーストフードチェーンからミルクシェイクの売上を伸ばす相談をクリステンセン氏は受けた。その企業は氏に相談する前も、いくつものコンサルティング会社やマーケティング会社に依頼をしていたという。ミルクシェイクについての調査を行い、顧客アンケートを数多く行なった。味についての意見を数多く集め、フレーバーを追加したり、トッピングを加えたりしたが、あまり効果がなかった。あるいは、顧客情報からセグメンテーションを行なって対策しようとしたが、こちらもほどんど成果が出なかったため、クリステンセン氏らに依頼したという。

そこで、クリステンセン氏らは、商品がよく売れる平日の朝に来店者を観察することにした。しばらく観察し続けていると、ある一定のパターンが見えた。ミルクシェイクを買う顧客は一人で入店し、ミルクシェイクだけを買い、車でそのまま走り去るケースが多かったのだ。そのパターンが見えたところで、顧客に「何をするためにミルクシェイクを雇ったのですか?」と尋ねたという。もちろん、ミルクシェイクを「雇う」というのは突飛な質問なので相手も自分の行動を振り返って考えないと答えられない。すると、次のような状況でミルクシェイクを買ったと説明した。

・車での通勤途中である
・一人で毎日運転するのは退屈である
・手持ち無沙汰を解消するためミルクシェイクはぴったりだ
・バナナを食べながら運転したこともあるが、会社に着く前になくなってしまった
・ドーナッツを食べながら運転したこともあるが、手がベタベタするのが気になってふさわしくない
・ミルクシェイクは手も汚れず、長持ちする

顧客の状況から言えることは、「退屈しのぎ」のためにミルクシェイクを買っているということである。クリステンセン氏の言葉を借りれば、「退屈しのぎ」という「用事=ジョブ」を片づけるためにミルクシェイクを雇っているのだ。

平日の朝だけでなく、休日の日中もミルクシェイクが売れていた。だが、まったく違う人たちが違う理由で買っていたのだ。

すべての回答をまとめ、客の人物像を分析したところ、新たなことが判明した。ミルクシェイクを買う人たちのあいだに、人口統計学的な共通要素はなかった。(「ジョブ理論」)

具体的にいうと、週末は子供に親が買い与えていたことが判明した。子供を厳しくしつけるだけでなく、たまには優しく接しようと、外出したときくらいは甘いものを買ってあげるのもいいだろう、という理由で父親が買うケースが多かったのだ。つまり、子供が喜ぶことをして「優しい父親の気分を味わう」ジョブを片づけるためにミルクシェイクを購入していた。

ミルクシェイクが雇われた理由

「退屈しのぎ」のミルクシェイクは、通勤のお供としてよりふさわしくなる方向性で改善が考えられる。ボリューム感があり、こってりしていて、味も飽きの来ないものが好まれるだろう。また、通勤時に簡単に買うことのできるブースを設置するのも有効だ。一方で、「優しい父親の気分を味わう」ミルクシェイクはあまり量が多くない方がいい。量だけでなく、甘すぎたり、体に悪そうな味だったら、親として子供に与えたくなくなる。

このミルクシェイクの話を聞いて、「ニーズ」に対する見方が変わったのではないだろうか?顧客は同じミルクシェイクを、異なる動機で購入している。この場合、ミルクシェイクには「ニーズ」があると言ってもいいのだろうか。

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