イスラエルのスタートアップエコシステムとは
Pitch Tokyoは、イスラエルと日本をつなげ新しいイノベーションを生み出すことを目的に、今年(2016年)3月から始まったピッチイベントだ。毎月1回、Fintech,IoT,AI,VR等の先端技術をテーマに、現地のスタートアップによるピッチ動画を放映。日本人投資家や企業との連携交渉をさらに推し進めるネットワーキングの場となっている。
本イベントを主催するAniwo社は、イスラエルの経済と文化の中心地テルアビブを本拠地に活動している。人工知能を活用したスタートアップと投資家・大企業を繋ぐイノベーションプラットフォーム「Million Times」の開発・運営を事業とする。昨年(2015年)の1月にサービスを開始し、イスラエルに存在する約6000社の企業の半数以上のデータを保持しており、これまで10社以上の投資連携を後押ししてきた。
日本人で初めて、イスラエル人と共同で現地にスタートアップを立ち上げた寺田氏。イスラエルで実際にビジネスをするなかで培った知見を活かし、同国が産学官で取り組む「イノベーションエコシステム」について、人工知能産業を例に独自の見解を語った。
実は、FacebookやGoogleなど、グローバルIT企業の人工知能技術を用いたサービスには、イスラエル発のスタートアップが関わっていることが多い。例えば、GoogleMapの渋滞表示アルゴリズムやFacebookの自動タグ付け機能は、イスラエル発のスタートアップによって開発されている。世界を変えるような先端的なイノベーションは、なぜイスラエルから生まれているのか?
寺田氏は、独自の見解を3つ挙げた。
- 技術者、技術シーズ(seeds:種)が豊富
- 技術シーズ事業化の優れたスキーム
- マルチナショナル企業、投資家の支援
1つ目の「技術者、技術シーズが豊富」というのは、イスラエルでの優秀な技術者を抱える研究機関の多さを意味している。Technion(テクニオン)と呼ばれる大学はイスラエルのMITと呼ばれており、優秀な工学系技術者が多数在籍している。近隣には、インテルがR&Dセンター(研究・開発センター)を構えており、将来有望な技術者を青田買いしているそうだ。寺田氏は「コア技術を持った技術者がいて、それを育てる研究機関がある」ことがイスラエルの大きな強みになっていると語る。
それは言い換えると、2つ目の「技術シーズ事業化の優れたスキーム」が存在するということでもある。同国には、新たに生まれた技術シーズ(seeds:種)を事業化していくためのブリッジも存在する。例えば、研究機関と企業を結ぶTLO(技術移転機関)は、技術シーズのデータベースを保持しており、アクセラレータとしての役割と、大企業側のニーズを踏まえ大学の技術シーズを企業へ提案する橋渡し的な役割の両面を担っている。
3つ目の「マルチナショナル企業、投資家の支援」は、ベンチャーキャピタルの積極的な介入を意味する。イノベーションを起こしていくためには、シード段階のビジネスに資金を投入し続ける必要がある。イスラエルのスタートアップエコシステムには、IBMやマイクロソフトなどのコーポレートアクセラレータプログラムが関わることも多いため、有望なスタートアップに、資金を投入する流れが出来上がっている。事実、 2015年のベンチャー投資はおよそ4000億円。これは日本の2倍以上の額にあたる。
寺田氏は、以下のように基調講演を締めくくった。
つまり、(イスラエルには)研究者がたくさんいて、技術的シーズが多く生まれ、それを事業化するようなブリッジ(スキーム)がある。そして、しっかりとゴールまで導いていくようなベンチャーキャピタル、大企業の支援(マルチナショナル企業)がある。完結したエコシステムがあるからこそ、人工知能などの先端技術に関連するスタートアップが増え続けている。