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中西崇文の異端と先端のTech考現学

AIで人を虜にせよ〜激化するチャットボット競争

中西崇文の異端と先端のTech考現学【第三回】

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 人工知能と話ができるというと、ソフトバンクのロボットPepperを思い出す人も多いだろう。私たちは、機械に直接話しかけることにはまだ慣れていないが、Pepperのようなロボットになら、親しみを込めて話しかけることができる。その時の私たちは、ロボットに対して話しかけているという意識で接している。実際にはロボットとの会話を成り立たせているものは人工知能だ。それゆえに、ときどき意表をつかれる発言に驚かされることがある。  では、人工知能が人工知能であることを隠し、人間として接する未来はあるのであろうか。また、人工知能が会話だけで、人間の心を揺れ動かすことはできるのであろうか。探っていくことにしよう。

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カーツワイルの予測よりも早かった「チューリングテスト超え」

 人工知能を評価するテストとして、チューリングテストというものがある。チューリングテストとは、対象となる機械が知的であるかを判定するテストである。端的に言えば、会話をしてみて人間か機械かを当てることを行い、機械と人間を区別できるかというもの。人間の判定者が人間と会話しているのと、機械と話しているのを当てられないくらい機械が自然な会話をしていれば、知的であると判断するものだ。

 実は、このチューリングテストにパスする人工知能が生まれる日として、レイ・カーツワイルの書の中では、「2029年」であると示されている。レイ・カーツワイルとは、あの「シンギュラリティ(技術的特異点)」、機械が人間を超える日を2045年と記した張本人だ。

 人間と区別がつかないほどの自然な会話をする人工知能、まだ想像できないかもしれないが、実は2014年にそんな人工知能が現れてしまったのだ。

 2014年6月7日、英国王立協会で5台のスーパーコンピュータのチューリングテストが実施された。スーパーコンピュータと人間は5分間の会話を複数回行い、回答したのがコンピュータと人間のどちらであるか判定者が判断した。この5台のうち、13歳の少年の設定で参加していたウクライナのスーパーコンピュータが30%以上の確率で人間に間違えられて、史上初めてチューリングテストをパスした。

 13歳の少年という設定が絶妙であったという点もある。13歳であれば、普通の成人に比べて、トンチンカンなことを言うかもしれないし、ボキャブラリも少ないかもしれない。模倣しやすい対象であったというのは否定できないだろう。ただ、どちらにせよ、史上初でチューリングテストをパスしたことは事実だ。レイ・カーツワイルが挙げた2029年という予想よりも15年も早く実現してしまったのだ。人間と間違えるほどの自然な会話のやり取りを実現する人工知能を生み出した瞬間だった。

出会い系の相手はチャットボットだった

 会話で人間と間違えさせることに成功しつつある人工知能。それだけではない。惚れさせることも可能となりつつあるようだ。

 カナダの出会い系サイト「Ashley Madison」で、2015年に3200万人分の個人情報がハッカーに盗まれた事件が発生した。このサイトは、不倫を目的とした男女の出会いの場を提供するサイトであったため、その漏えいの被害は、プライベートな問題を生み出していた。その中で発覚したのは、女性と思われていたユーザのほとんどがチャットボット (ソフトウエアで作られた会話ロボット)であったことだ。「Ashley Madison」はチャットやメールをするたびに料金が発生する仕組みで、男性は有料、女性は無料という設定であった。つまり、チャットボットが男性を誘惑してサイトに登録させて、チャットボットが人間の女性に扮して男性の心を動かしていたということだ。

 「Ashley Madison」は、当初は「さくら」として外部に委託して偽の女性会員を作って男性とチャットなどを行っていたようである。それだけでは手が回らないため、チャットボットを導入したようだ。女性がサイト内に多くいることを示すことは、男性側が無料会員から有料会員に切り替える要因として非常に重要である。さらに、チャットボットはいつまでたっても浮気が成立しないため、長期間男性からお金を引き出すにはもってこいであった。

 「Ashley Madison」のチャットロボットは男性を人間の女性ユーザとチャットやメールをしているように勘違いさせることができた。そして、この漏洩事件により、多くの男性が騙され、料金を払っていたことが判明してしまった。この事件から言えることは、チャットやメールというやりとりをする媒体を特化させて、チャットボットを作れば、簡単に人間を信じ込ませるだけのコミュニケーション能力を機械が持ってしまうこと、そして、男性が長時間そのサイトに留まらせるだけの魅力を兼ね備えていたことになる。チャットボットが人間の男性を多数惚れさせることに成功していたのだ。

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この記事の著者

中西 崇文(ナカニシ タカフミ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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