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7つのエピソードから理解する「鴻海」と「郭台銘」――『鴻海帝国の深層』より

新刊紹介:『鴻海帝国の深層』

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『鴻海帝国の深層』担当編集の中村です。さて今日は、シャープを買収したことで日本でもすっかり有名になった「鴻海精密工業」とその創業者である「郭台銘」について、『鴻海帝国の深層』に載っているエピソードを引用しながら、その会社の様子と人となりを少しお伝えしようと思います。

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鴻海と郭台銘の基本情報

名称 鴻海精密工業(グループ名称は鴻海科技集団、中国での名称は富士康科技集団、欧米での名称はフォックスコン・テクノロジーグループ)
創業 1974年2月20日
連結売上 約15兆円(2015年度)
従業員数 約4,000人(グループ従業員数は130万人)
本社 台湾台北県新北土城区(近くに刑務所がある、比較的ガラの悪い土地柄)
業種 PC・ゲーム機・携帯電話・スマートフォンなどの受託製造(EMS)

名前 郭台銘(英語名 テリー・ゴウ)
職業 鴻海精密工業の創業者・会長
出生 1950年10月8日
出身地 台湾台北県新北市板橋区(土城区の隣の地区)
最終学歴 中国海事専科学校(現 台北海洋技術学院)航運管理科卒
趣味 仕事、ゴルフ、水泳

 注目すべきは、鴻海の創業と売上です。テレビのチャネルのツマミなどを作る台湾の町工場として事業をスタートさせ、わずか40年余りでグループ売上が15兆円(2016年現在)。この成長スピードがいかに速いかは、ソニー(8兆円、創業70年)、パナソニック(7.5兆円、創業89年)、東芝(5.7兆円、創業112年)といった日本の電機メーカーと比較しているとよくわかります。

 この急速な成長を支えたのは、電子機器の受託製造(EMS)という事業モデルと郭台銘の時代を先読みする力です。鴻海は、PC、ゲーム機、携帯電話、スマートフォンなどの成長市場にいち早く目を付け、デルやアップル、ソニーや任天堂といった各製品のトップシェア企業を顧客にすることで、世界最大のEMS事業者となったのです。

 では、その躍進の要因を7つのエピソードから読み解いていきましょう。

エピソード1 ハードワーク

「毎朝プールで幹部と仕事の話をして業務を始め、1日15時間働く」

 成功する創業社長の多くがそうであるように、郭台銘もまた、非常によく働きます。起業当初は毎朝6時過ぎに家を出て、銀行が閉まる3時半までは資金繰り、その後工場で工員と働き、帰宅は深夜1時、2時。正月も3日目から出社、創業以来3日以上の休暇をとったことがないそうです。

 古くからの社員は、郭台銘が客に会うために外に4時間、雨に濡れたまま立っていたことを覚えています。「今でも覚えている。中秋節のことだ。郭台銘は全身ずぶ濡れで帰ってきた。お客さんは、プレゼントは受け取ったが彼を会社には入れてくれなかったんだ」。彼の仕事に対する姿勢は「成功には三つの条件がある。第一に良い戦略があること、第二に決意があること、第三に方法は変えられると知ることだ」からも分かります。

エピソード2 スピード

「スピードのある者には利益が、スピードのない者には在庫が残る」

 鴻海では、スピードを実現するため、顧客企業の近くに設計センターを開設し、顧客と協働で商品を設計し、必要に応じて、週末や休日も関係なく、昼夜を問わず作業を続けます。ある機種が急に大ヒットすると、EMS事業者には、生産能力をすぐさま急増できるかが試されるからです。たとえば、発売からわずか3か月で1,000万台を越えたソニーの新型PSPの出荷を可能にしたのが、この鴻海の生産能力です。

 また、コンパックから初めてPC筐体の注文を受けた際には、工場がまだ完成していない時点で臨時の生産ラインを設置し、生産を開始することで、納期に間に合わせています。「スピードのある者には利益が、スピードのない者には在庫が残る」が、郭台銘の口癖だそうです。

エピソード3 コスト

「製品が普及して価格が下がると、鴻海のシェアが上がる」

 鴻海は、競合企業が耐えられないところまで受注価格を下げます。顧客が市場で価格面で優位に戦いを進めれば、そこに製品を納める自らも利益を得るという考え方です。そして社内コストを徹底的に抑えるため、レポートはできる限り白黒印刷にする、社員はエレベーターではなく階段を使う、昼休みは工場の電気を消す、作業時間内でも廊下の電灯は間隔を空けて点けるなど、徹底して経費を削減しています。

 しかもアフリカ以外の世界4大陸の人件費の安い国に工場を置くことで、土地や人件費だけでなく、物流コストや税金を低減させています。ちなみに、鴻海における究極の目標は「赤字で受注、黒字で出荷」だそうです。

エピソード4 倹約

「ブランド品を身に付けず、高級車にも乗らず、飾ることに興味なし」

 郭台銘は、ブランド品を身に付けず、高級車にも乗らず、飾ることにまったく興味がなく、髪も自宅で切っているそうです。仕事机も会議机の寄せ集めで、その上に置かれているのは書類以外にアラーム付時計とメッキのライオン像だけ。秘書が、郭台銘のために準備している小遣いは1週間に1万元(約3万円)ですが、ひと月かけても使い切れないことがよくあるそうです。

 台湾企業の社長連中が日本企業を視察に来たとき、仲間の社長たちは全員帝国ホテルに泊まりましたが、郭台銘はそこには1泊しただけで、2日目の日程が終了すると、東京の関連工場近くの1泊6千円の部屋に移ってしまったそうです。彼曰く「こうすれば、夜は自分の工場も見ることができるからだ」とのことです。

エピソード5 独裁

「議論したいと考えたときには、真夜中でも帰宅した社員を呼び出す」

 郭台銘の経営のやり方は、基本的に「独裁」です。経営にはスピードが重要で、協調は二の次だと考えているからです。一方で、問題が起きたときには、自ら夜中まで現場にいて見守り、必要に応じて独断し、社員に決断の根拠を説明します。そのため、郭台銘が何か議論したいと考えたとき、関係者は必ずすぐに集まらなければなりません。すぐ駆け付けないと、ひたすら電話がかかってくるそうです。

 また多くの鴻海幹部はみな、帰宅後に会社に呼び戻された経験があります。中には飛行機に乗ろうとバスを待っていたところを「30分だけ話をしよう」と呼び止められて、結局、話が2時間に及び、飛行機に乗り遅れてしまった幹部さえいます。

エピソード6 信賞必罰

「創業期からずっと、年末には社員に贈り物を」

 鴻海では、創業期からずっと、たとえ石けん1個でも年末には社員に贈り物をしてきました。儲かるようになってからの忘年会の賞金はあまりの豪華さにテレビ局が取材に来るほどで、ある年の賞金総額は5億元(約15億円)に達したそうです。ただし、忘年会の抽選では参加者全員が平等ではありません。業績評価に応じて参加する抽選が決まるのです。

 また、ボーナスを大判振る舞いし始めたのと同時に、リストラも始めています。ある意味、信賞必罰が徹底されているのです。鴻海の各事業グループでは毎年人事の調整計画が立てられ、不適格な社員は、優遇措置を取ったうえで解雇されます。

エピソード7 営業

「顧客が乗る飛行機の便を調べ、他に先んじて同じ便に乗り込む」

「電子機器の受託製造を台湾メーカーに頼もう」と考えた、ある大手メーカーの経営者が台北を訪問した際、多くの台湾メーカーの幹部が部下を引き連れて、空港で出迎えました。しかし到着口で彼らが見たのは、その顧客が郭台銘と談笑しながら歩いてくる姿でした。郭台銘は顧客が乗る飛行機の便を調べ、他に先んじて同じ便に乗り込んでいたのです。

 鴻海では全営業マンが「秘密連絡図」を持っています。秘密連絡図には、取引先企業担当者の氏名・肩書き・職務権限の範囲・好み・誕生日・家庭状況などが書かれています。誰がいつどこに出没するかを把握し、社長に「偶然の出会い」のチャンスを提供することで、受注を獲得しているのです。

鴻海と郭台銘を理解する

 以上、いかがでしたでしょうか? 私は正直、鴻海で働きたいとは思いませんが(笑)、日本企業がこのグローバル企業から学ぶべき点は多いと思いました。そして現在、「好むと好まざるとにかかわらず、鴻海や郭台銘のような存在は、ある程度理解しておかなければならない」というのは、事実ではないかと思います。

鴻海帝国の深層

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鴻海帝国の深層

著者:王樵一
訳者:永井麻生子
発売日:2016年8月4日(木)
価格:1,728円(税込)

郭氏のキャラクターとは?
「堅実経営の一方で忘年会の賞金総額は15億円」
「工場を建設しながら出荷する」
「自ら生産ラインに立って、3日でも徹夜」
「逮捕されても工場が近くにあれば指揮できる」

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この記事の著者

中村 理(ナカムラ オサム)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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