UI/UXデザイナーである僕が、MITでビジネスを学ぶ理由

 「デザイン思考」という言葉がイノベーションのキーワードとして語られるようになり、アメリカやヨーロッパのデザインスクールへの注目が高まっている。本連載では、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)に2015年に新設されたデザインスクールに在籍する唯一の日本人である筆者が、このプログラムでの体験を中心に、MITにおけるデザイン、ビジネス、エンジニアリングの交差点で行われている取り組みについてレポートしていく。

[公開日]

[著] 永田 昌一

[タグ] スタートアップ デザイン思考 教育 MBA デザインスクール MIT IDM

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30代での「好奇心」、UI/UXだけではダメだという「危機感」

30代での「好奇心」UI/UXだけではダメだという「危機感」

ビジネスのためのデザインとは何なのか?

 10年ほどデザイナーとして働いたころに、この疑問を真剣に考え始めた。

 僕はタイル職人として働く両親の一人息子として大阪で生まれた。自宅のガレージにはたくさんのタイルや道具があり、父親が自分で貼ったタイルで彩られている家で育った。小さい頃、過去に仕事をした家屋やビルの近くを車で通るたび、父親は誇らしげな顔をしながら自分たちの仕事を説明してくれた。そんな環境が、ものづくりの世界に自分を導いてくれたような気がする。

 京都工芸繊維大学デザイン経営工学科の1期生として建築を学び、卒業後に京都のソフトディバイスというユーザーインターフェース / ユーザーエクスペリエンスデザイン(UI/UXデザイン)コンサルティングの会社でデザイナーとしてのキャリアをスタートした。この会社は、日本におけるUI/UXデザインのパイオニア的な存在であり、モノとユーザーの関係を見直し、使いやすく分かりやすい操作手順や画面、そしてユーザーの体験そのものをデザインするコンサルティングをしている。大学に講義に来ていた当時の社長、高橋賢一氏が語った「ユーザー中心のデザイン」に感銘を受け、この会社で働くことを決意した。家電や医療機器、車載機器などの様々な業務に携わり、在籍した5年間でユーザー中心のデザインの考え方を体に染み込ませていった。

 大学時代、 デザインの才能豊かなクラスメートに囲まれるなかで、デザインそのものよりもデザインというパワーが活かされる組織や環境に興味を持っていた。 そのこともあり、5年後にソフトディバイスを卒業し、マネージメントを学ぶために外資系家電メーカーに転職した。そこでは、コンサルティングの時とは違い、海外の商品企画や開発部門と連携しながら自社の製品を開発していくプロセスを学んだ。デザイン部門の意見が尊重される会社であったこともあり、「ユーザーのためのデザイン」を旗印に、とにかくユーザーに必要とされている操作性改善や機能追加をどんどん行っていった。

 2010年くらいから、サービスデザインやビジネスデザインと言った言葉を社内でよく耳にするようになり、ビジネスとして成立することを前提とする総合的なデザイン提案が求められていった。「ユーザーが必要としているデザイン」と「売れる商品にするためのデザイン」のバランスをとる必要が出てきたのである。

 例えば、3年から5年先を見据えた「先行デザイン提案」でもビジネスモデルがある程度見えていないと製品化検討会議にすら進めないようなことが起こり始めたのである。製品ラインナップの開発においても、ユーザー調査で数年間続けて出てくる不満を解決することよりも、カタログに載せてマーケティングに使うことができそうな追加機能にリソースを集中させることも多々あった。このような環境の中で、自然に「ビジネスのためのデザイン」というものを学びたいと思い始めた。

 時を同じくして、デザイン思考という考え方が普及し始め、デザインエンジニアやビジネスデザイナーといった境界領域で活躍する「ノンデザイナー」の存在が注目されるようになってきていた。UI/UXデザインだけでは、前線で仕事ができなくなるのではないか? そんな危機感が後押ししたこともあり、32歳にして2つ目の専門性を得るための進学を考え始めた。

■関連リンク1:京都工芸繊維大学デザイン経営工学科
■関連リンク2:ソフトディバイス

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