「〇〇×イノベーション」──デザイナー、ノンマネージャー、アナリスト、研究者の立場から

i.Lab Innovation Lounge Vol.1 講演録

 2017年3月24日(金)に、i.lab(イノベーション・ラボラトリ株式会社)主催で実施された「〇〇×イノベーション―立場の違いに見るイノベーションへの取り組み」。この「〇〇」には立場や肩書き、つまり、マネージャー、研究者、デザイナーなどが入る。「プロダクトデザイナー」 i.lab 村越淳氏、「ノンマネージャー」 ブリヂストン 矢頭幸子氏、「シニアアナリスト」 MUFG藤井達人氏、「研究者」 ポーラ研究所 本川智紀氏という、立場や肩書きが様々な4名が登壇。そこに「マネージャー・教員」であるi.lab 横田幸信氏が司会役として加わり、共通項であるイノベーションが語られた。その一部を講演録としてお伝えする。会場は、東京港区のSHIBAURA HOUSE。世界で活躍する建築家・妹島和世氏(SANAA)が手掛けたガラス張りのこのビルも、まさにイノベーティブなものの1つだ。

[公開日]

[講演者] 村越 淳 矢頭 幸子 藤井 達人 本川 智紀 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] デザイン思考 事業開発 オープンイノベーション

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 集まった参加者は、何らかの形でイノベーションに関わる人たち。これまでのイノベーションに関してのイベントはそれぞれの取り組みを紹介するようなものが多く、なぜやっているのか、とか、一人ひとりが抱える悩みが吐露されることは少ない。今回、司会を務める横田氏が仕掛けたのは、イノベーションに関わる人のパーソナルな話や悩みまでを掘り下げて聞くこと。多様な立場ならでは感じる、イノベーションプロジェクトの生々しい一面が浮かび上がった。

「“ロジックに調和を与える”デザイナーの役割」 プロダクトデザイナー×イノベーション 村越淳氏(i.lab)

村越淳村越淳氏(Product Designer/Jun Murakoshi Design 代表)

 私が意識しているのは、プロダクトを作ることでデザイナーが未来の技術の方向性を提案できないかということ。デザインという立場から、まわりの技術を刺激したいと思っています。

 プロダクトデザイナーの仕事も他と同様にスピードが求められ、いつも一定以上の数をこなす必要があります。でも、私のデザインの仕方は正直時間がかかる。たとえば、1日5時間で完成させるより、総時間は同じでも、1日1時間ずつ5日間かけたい。でもこのやり方をおし進めてもなかなか通用しません。では、どうするか。1つの可能性として、複数本のプロジェクトを同時に走らせたり、デザインする領域を変えたりする、つまり、プロダクトデザインではなく、グラフィックデザインをやったり空間デザインをやったり、というようにデザインの領域を増やして、相乗効果や効率性を高めていくというやり方もあります。でも私の場合はこれらのようなデザインの対象ではなく、デザインに別の価値を見出してくれる領域であるイノベーションプロジェクトに携わることで相乗効果を高めようと考えてきました。

 デザイン教育を受けている人は、よりユーザーに自分自身を投影できる、つまりペルソナ像を理解することで対象者と近しい判断ができるというデータがあります。実際、イノベーションプロジェクトでの私の役割のひとつは、とにかくユーザーになり替わって、刻々と変化するアイデアをリアルタイムに評価するということだと思っています。

 一般的に、イノベーションプロジェクトに関わる人はかなりロジカルな人が多い。でもロジックを積み上げているにも関わらず調和がとれていない時があります。その違和感に誰よりも早く気が付き、自然と調和を意識できるのがデザイナーだと思っています。ユーザーと商品の設定の距離をセンシティブに感じること。私たちデザイナーは、イノベーションプロジェクトにおいて違和感のチェック機能という役割を果たせるかもしれません。

 最近の悩みは、生涯現役プレイヤーでいくのか、プレイングマネージャーなのか、はたまたマネージャーに専念すべきなのか。そんなことを考える時間が増えました。デザイナーにかかわらず、エンジニアや研究者など、どこか職人的でベーシックな作業にも仕事の醍醐味を感じたい職業では、同じような悩みを抱えた方も多いのではないでしょうか。私自身の場合は、並行して進むプロジェクトごとに自分の立場を変化させるということが現状の答えになっているように感じています。

「トップマネジメントをどう巻き込むか」 ノンマネージャー×イノベーション 矢頭幸子氏(ブリヂストン)

矢頭幸子矢頭幸子氏(ブリヂストン)

 タイヤの売上83%。それ以外の多角化事業で17%。タイヤの印象だけが強いブリヂストンですが、実はユニットバスを作ったり免震ゴムといって地震の際に建物を守るショックアブソーバーみたいなものを作ったりしています。私は「イノベーションマネジメント部」という部署に属しています。まだ若手で、部下は一人もいません。

 私の仕事は「イノベーションが触発される風土づくり」です。社員にいろいろな刺激を届けて、イノベーションを引き出すのが仕事。社外の方に講演を頼んだり、発想法の先生にもいらしていただいたりしました。参加した社員はその場では面白かったと言ってくれますが、自分たちの仕事はイノベーションとは関係がないと思っているせいか、その後何も起こらないんです。本当は一般社員の一人ひとりが、自分の生活に中で“ここチャンスなのに!”という局面に遭遇しているはずですが、それをアイデアとして聞いてもらえると思ってない。よく上司は“若手の提案が少ない”なんて言っていますが、私から言わせれば、気持ちはウエルカムかもしれないけど顔が怖い。言えないですよね。

 そこで、匿名で話し合えるイノベーションWEBサイトを開設し、IF(IDEAFULLFIL)プログラムという、誰もがアイデアを自分の言葉で提案できる社内提案制度を始めました。現在の制度内での裁量と小さな予算でやれる限りの仕掛けをしています。まだ活動の認知度はほどほどで、参加すると上司に怒られるんじゃないか、と思う人も多い。目下の悩みは、会社のトップに活動をどうやって知ってもらうか、ということです。ルールに合わせて、まず課長に、そして部長に、社長秘書に、と段階を踏んで順番に説得していてもゴールが遠い。多くの会社は社長直下でイノベーション事業を進めると聞きますが、うちは違うんです…。イノベーションに対し、少し冷ややかな環境の中での活動は苦しい。金一封が出るわけでもない。それでも、明日の会社、社会、仲間のために一緒に考えてくれる人がたくさんいる会社であることは誇りに思っています。

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