「家そのものをAI化」する、スタンフォード大博士とグーグルを発掘したレジェンド投資家が起ち上げたBoT社

スタンフォードの機械学習やロボティクス分野の第一人者、アシュトシュ・サクセナ博士が来日した。彼がグーグルの創世記の投資家、デビッド・チェリトン氏らと起ち上げたスマートハウスのベンチャーが「Brain of Things (BoT)」社だ。家電をはじめ住環境そのものを知能化し学習させる「家のAI」ビジネスについて紹介しよう。

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[取材・構成] 京部康男 (Biz/Zine編集部)

[タグ] IoT AI スマートハウス

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AIの第一人者アシュトシュ氏、Googleを発掘したデビッド・チェリトン氏が設立

「Brain of Things (以下BoT)」社は、スタンフォード大学の人工知能博士アシュトシュ・サクセナ氏が設立したスマートハウスのベンチャー企業。アシュトシュ氏は、AI・機械学習に関する数学的統計処理の研究で博士号を持ち、元コーネル大学教授でロボティクスの第一人者であり、さらに3次元への画像変換のアルゴリズムでも知られる。スローンフェローでスミソニアントップ8イノベーターに選ばれ、チーフ・サイエンティストとして、スティーヴン・スピルバーグ制作のTintinのHolopad(3D)アプリの制作に参加している。

もう一人の共同設立者でありチーフ・サイエンティストが、デビッド・チェリトン氏。
チェリトン氏は、グーグル創業者のラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリンを大学時代の教え子として見出し最初に投資した人物。世界的な大富豪でもある。

この2人の他にも、BOT社にはグーグルやイーロンマスクの設立した宇宙ベンチャーのSpaceX、テスラなどの経験を持つエンジニアが集まっている。

Brain of Things, Inc.CEO & Co-Founder Ashutosh Saxena (アシュトシュ・サクセナ)氏

家を単一のOSでコントロールする

アシュトシュ氏は、BOTのスマートハウスは、単なるIoT機器を集合させたものではなく、単一のプラットフォームであり、家電や住宅環境が相互に連動するものであり、中で生活する人間の行動を学習するものだという。

「以前は手帳、時計、ポータブルオーディオ、携帯電話などばらばらに持ち歩いていたものが、ある時から一気にスマートフォンに集約された。同じように家の中にある照明、カーテン、家電が今は断片化してつながっていない。これらは一つのプラットフォームでコントロールされえる。それが、ホームOSであり“キャスパー.AI”だ。」(アシュトシュ氏)

現在“キャスパー.AI”は、米国内に100軒以上の導入実績があり、さらに、不動産会社と協業して米国内で2万軒の導入が予定されている。

フィリップス社のスマートLED照明の「Hue」や、グーグルが買収したサーモスタットの「Nest」などスマートフォンでコントロールできるIoTデバイスが登場してきている。しかしそれらは「断片化」しており、ユーザーがすべてを設定するのは難しい。アシュトシュ氏自身が、HueやNestなどを数年前に使ってみて大変だったことから「家のOS」を着想し、デビッド・チェリトン氏に相談したところ、2015年に開発のプロジェクトが始まった。即座にプロトタイプが出来た。

「ムーブ・イン・レディ」──すぐに使え、学習する家

IoTをそれぞれの機器からではなく、OSの側から考える。それぞれの家電や機器はプラットフォームに準拠するものが設置されており、ユーザーは入居して使える。機器のコントロールは、あらかじめ膨大なデータの収集と分析からプロトタイプのモデルが設定されているが、ユーザーが「住めば住むほど」学習し適合していくという。

「ムーブ・イン・レディで、居住者は入居してすぐに使える。あらかじめ設定されたパターンがあるが、手動でスイッチを入れたり音声で指示をしていけば、それを学習していく。」(アシュトシュ氏)

“キャスパー.AI”は、部屋に設置された各種センサー(モーション、ビジュアル、音声、温度、湿度、照度、バイブレーションなど)から居住者の行動のデータを集め、データ解析し、居住者の行動を学習し、居住者の行動(嗜好)の予測を行い、住居内の機器に最適な動作を命令する自動化をおこなう。また、センシングされたデータは「機械学習」で解析し、音声認識には「ディープラーニング」(深層学習)を使い、最適な動作をAIと人間どちらが行うかは「ゲームの理論」を使って判断するというものだ。

システムとしては、住居内のセンサーでデータが検知され、ハウスクラウドで収集・分析され、BoTのクラウドサーバーに送られる。「エッジ -フォグ-クラウド」の3層のコンピューティングの仕組みとなる。

「睡眠時間が短かった日の朝の照明は少し柔らかめにするとか、「部屋を明るくして」という音声の指示に対して、晴れた日であればカーテンを開ける、夜であれば照明をつけるなど、それぞれの環境ごとに約3200万通りのシナリオがある。これらの組み合わせは数億のパターンになり、その学習を深層学習で行う。」(アシュトシュ氏)

「学習する家」が提供する価値

このBoT社のスマートホームと“キャスパー.AI”だが、東京・新宿区に宿泊体験型のモデルルームがある。
毎日の起床時間にあわせてカーテンが開いたり、音声の指示で照明の色を気分に合わせて変更したりすることができる。BoTはすでに日本で展開を開始しており、東京新宿区・四谷にはスマートハウスのショールームがあり、(株)エコライフ社と販売代理店契約を結んでいる。

あらゆる機器がつながり、データが収集され分析されるIoTとAIの時代。生活家電のIoT化もますます進むと思われる。また、AmazonやApple、Goole、LINEなど各社が家庭用の音声認識機能を搭載したデバイスなども続々投入されている。
Appleは先頃「HOME POD」を発表したが、iPodという音楽プレイヤーから出発し、iPhoneの生態系を作り上げたように、単体のデバイスから侵食していくという戦略が現実的かもしれない。

こうした流れの中で、それぞれの「デバイスのAI」が先か、住居という「場所のAI」が先かは、判断が分かれるところだろう。また家の中に大量のセンサーが埋め込まれることのセキュリティやプライバシーといった課題もある。

しかし、家という場所がインテリジェントになることの課題解決も無視できないだろう。高齢化による独居老人の問題や介護や育児、ECによる宅配物の移送の増加による労働の深刻化などの社会課題の解決にもつながる可能性がある。

「キャスパー.AI」は、米国内で200件が建設済みで、不動産会社と協業して2万軒の導入を計画している。日本での今後の展開に注目したい。

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