デザインプロセスは「協働・共創」に必要な“共通言語”
-「デザイン思考」という言葉は日本でも流行語のようになりましたが、深くは理解されていないようです。デザイン思考をどう捉えていますか。
デザイナーたちは直感的に、世界に興味を持つ、そのあり方に疑問を投げかけるということをしています。世界はどうしてこうなっているのか。他にもっといいやり方はないのか。そういう興味と疑問が、彼らをアイデアに向かわせます。その後、そのアイデアを、描いてみたり、立体にしてみたり、コンピュータを使ったりして、実際にいろいろ試して、最終的によいと思えるソリューションを導き出す。
「疑問を持つ」「アイデアを探す」「試す」「最終形を出す」というこのプロセスは、ある1つのソリューションに「収束し、また拡散する」というサイクルを繰り返します。
デザイン思考は、デザイナーのこういう直感的なデザイン行為に説明を与えたもので、どちらかというとノンデザイナーのためにあると思っています。いわゆるデザインプロジェクトに関わったことがない人でも、デザイン的アプローチを経験して、問題解決に生かせるようにするためです。
デザイナーが広い範囲にわたる、より複雑な問題に取り組もうとすると、多様なバックグラウンドを持つ人々と協働しなければなりません。そのなかで、デザイナーだけがデザインプロセスを理解しているだけではうまくいきません。協働・共創のためには、全員が同じプロセスを共有していなければならない。そこでその説明が必要になったのです。デザイン思考の説明ができるようになって、より幅広い人々と一緒に仕事ができるようになりました。
そのうちに、この考え方にはもっと広い用途があることが分かってきました。デザインの定義は広がっていて、これは問題でもあれば、おもしろくもあります。必ずしもデザインそやデザインのやり方そのものとは関係がないかもしれません。
当初は、デザイン思考を単純に、疑問を持つ→人々を観察する→アイデアを考える→プロトタイプを作る→製品化するプロセスであると説明していました。しかし、デザインを直線的なプロセスだと考えてしまうと、単純すぎるし、それ自体が制約にもなると、その後、気づきました。
デザイン思考の考え方を初めて何かに導入しようとするときに、それをプロセスとして捉えるのは有効です。けれども、間もなく、そのプロセスを手放す方法を学ばなければならなくなります。材木の扱い方はあれこれと教えられる。といっても、偉大な家具職人の 仕事ぶりにはこれといって決まったプロセスは見られないですね。私は、この例えをよく使います。
どこか出発点は必要ですが、クリエイティブなことを起こすには、ルール破りが大切なこともよくあります。デザイナー相手に話をするときに強調しているのは、デザイン思考をプロセスとして説明されたからといって、それを言われわれたとおりに使う必要はないということです。