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米メディア『Quartz』が語るジャーナリズムの破壊系イノベーション

SmartNews Compass 2014

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株式会社スマートニュースが12月1日に開催した『SmartNews Compass 2014』で、米ビジネスメディア『クォーツ(Quartz)』のケヴィン・ディレイニー氏、スマートニュースのリッチ・ジャロスロフスキー氏、藤村厚夫氏による「SmartNewsと米国メディア責任者が語る 最新メディア動向とジャーナリズム」と題するセッションがおこなわれた。【写真】左からケヴィン・ディレイニー(Quartz business site at Atlantic Editor in chief ) / リッチ・ジャロスロフスキー(スマートニュース VP for Content)/ 藤村厚夫(スマートニュース執行役員)

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メディアは危機か?黄金期か?

司会役をつとめるスマートニュースの藤村氏は「米国のオンラインメディアの黄金期を築いてきた人物」として、ケヴィン・ディレイニー氏とリッチ・ジャロスロフスキー氏を紹介。ケヴィン・ディレイニー氏は、The Wall Street Journal Onlineを経て、現在、米国のデジタルメディアとして急成長しているQuartz(クォーツ)社のチーフ・エディターを務める。冒頭、藤村氏がケヴィン氏に米国のメディアの現状について聞いた。

ケヴィン:良質なコンテンツを出し続ければ、メディアは生き続けるでしょう。今は新たなジャーナリズムの黄金時代であり、まだまだ反映することができると考えています。Quartzは、質の高いコンツンツづくりをおこなうため、デジタル特有の短いコンテンツだけでなく、従来の新聞のような長い記事も必要とします。そうした記事を書くジャーナリストたちも、アメリカ、ヨーロッパ、インドで採用しています。

リッチ・ジャロスロフスキー氏もThe Wall Street Journal Onlineを立ち上げた主要メンバー、政治系記者から出発し、伝統的なメディアの世界の桎梏も知り抜いている。その後ブルームバーグに移り、動画メディアの経験も積んでいる。また、米国のジャーナリズムの重要団体、Online News Association(ONA)のファウンダーでもある。藤村氏は、このONAの活動の設立のきっかけと目的について質問した。

リッチ:伝統的なメディアは紙媒体を重視する心理があり、当初デジタルメディアは、あくまで親会社の媒体の付属物という見られ方でした。デジタルメディアの連中はその頃は、そうした状況におたがい苦情を言いあっていたのです。話してみると、CNNのような放送媒体の人々とも関心が共通していました。デジタルメディアに関わる者同士で、新しいものを生み出そうとして、15年間活動してきました。そして今、デジタルニュースの時代が立ち上がったと感じています。

ONAは、スマートニュース自身も加入している組織だ。ONAのカンファレンスは、今後のメディアの動向を知る上で重要で、日本でもこのカンファレンスを招聘したいと、藤村氏は言う。

Quartz登場の衝撃

さらに藤村氏は、Quartzがいかに先進的なWebメディアであるかについて語った。

藤村:Quartzが2年前に始まった時は、衝撃でした。それまでのビジネスメディアにあったトップページを持たなかったことです。トップページがなく、どんどん新しい記事を、スクロールしながら読むことができる。そして、それぞれの記事がURLを持っている。 広告に対しても見識がありました。タイムラインでストリーム型で配置されるコンテンツに対して邪魔にならない形で、非常に大きなビジュアルインパクトのある広告の形式です。あくまでコンテンツ中心で、小さくて雑多な見苦しいメニューをすべて排除しています。 またコンテンツについては、“クォーツ・カーブ”というモデルがあります。読者にとって、しっかりと読みたいとか、存分に読みたいというテーマについては、長めでしっかりした取材による記事、一方の普通に読むコンテンツについては、ぐっと圧縮されてさっさとたくさん読める形式の記事になっています。コンテンツと読者の関係を、U字型のアプローチをモデル化していることもユニークです。研究すればするほど、ビジネスメディア、Webメディアの将来について、インスパイアされるものだと思います。

ケヴィン氏は同社のコンテンツのポリシーについて語る。

ケヴィン:Quartzは、デジタルメディアとして徹底化した事例です。アナログの部分をまったく持ち合わせていないのですが、読者は直感的に理解でき、サイトがどう機能しているかも把握しました。ストリームに並ぶすべてのコンテンツはURLになっていて即座にシェアができます。ソーシャルメディアが、トラフィックを牽引しているからです。

次に藤村氏は、「アトランティックメディアのようなアメリカの歴史ある老舗の出版企業から、なぜQuartzのような斬新なメディアが生み出されたのか」について聞いた。

ケヴィン:アトランティックメディアは、米国の老舗の出版社のオンラインメディアとして、50万人の定期購読者を持っていたのですが、現在オンライン化によって、トータルで3500万のビジターがいます。およそ6,7年で50万から3500万に成長したということです。アトランティックのオーナーも、市場を破壊的に変えていきたいと確信を持ったのでしょう。デジタルネイティブ、モバイルファースト、グローバルが原則だと思います。もちろん、従来のエコノミストやファイナンシャルタイムズのようなビジネスリーダーに変わる、次の世代のナショナルリーダーにコンテンツを提供していきたいと考えています。重要なビジネスリーダーに対しても、ソーシャルとモバイルを通じてリーチ出来るのです。主要な読者層は、10万ドル以上の年収層ですが、そうした層も今では、リンクトインやフェイスブック、ツイッターなどにより、ソーシャルとモバイルに移行しています。

後半のフリートーク。藤村氏は「メディアは新しい黄金時代に入ったのか?それとも苦境なのか?」「今はメディアにとって、勝者と敗者がわかれる時代なのか?」というテーマを投げかける。

ケヴィン:今は、ジャーナリズムにとっては黄金期です。なぜなら、いままで以上に人々はニュースを読んでいるからです。Quartzでは、6000〜10000ワード以上の記事が好まれています。そうした記事を読みたい人がいるのです。ジャーナリズムをデジタルやモバイルと考えなおさないと思います。 ユーザー体験は、これまでの新聞などとは、ぜんぜん違ってきているからです。ニュースメディアは、従来の新聞メディアの発想で、「オーディエンス・デベロップメントチーム(読者開拓チーム)」をつくったりします。しかし、必要なのは、従来の新聞メディアとは異なる発想です。たとえばビジュアル面です。図表もストーリーに即して、ビジュアル仕立てでみせるということが重要です。チャートビルダーのようなソフトを用いて作成します。オープンソースなので誰もが使えます。CNNの記者も使っています。今までなら、800字の原稿書くことが先でした。今は書きながら、チャートについても考えるのです。 もうひとつは、コスト構造です。新聞の黄金時代をひきずっているようなコスト構造ではダメなのです。われわれのようなメディアは、本社ビルも、トップのためのリムジンも必要ありません。私は地下鉄で通っています。

ペイウォールは未来?

続いて藤村氏は、最近のニュースメディアの重要トピックとして、「ペイウォール(有料型)」を取り上げた。WSJは有料購読によって、メディアの財務体質と切り拓いたが、なぜQuartzはペイウォールを採用しないのか?

リッチ:ペイウォール(コンテンツ有料化)は、WSJの戦略として検討し私もそのメンバーとして採用しました。当初は批判が多かったのです。WSJにとっては、きわめて正しい選択肢だったと思います。しかし、すべてのメディアにとって正しいとは思いません。 ニュースはコモディティ化していくので、有料化は難しいのです。WSJが成功したのは、経済や金融の分野で優位性を持っていたからです。その見極めは、大衆受けすることではなく、関心の強さだと思います。たとえばローカルな地元のメディアで、一般的なニュースについての有料化は難しいですが、地元のチームに対する情報や特定の情報については可能性があります。このように有料化は、すべてのメディアに対して正解ではありません。

なぜQuartzはペイウォールを採用しないのかについて、ケヴィン氏は語る。

ケヴィン:Quartzがペイウォールを現段階で採用しないひとつの理由は、成長したい、読者をもっと増やしたいからです。ソーシャルなどを通じシェアして、拡大していくときに、ペイウオールだと摩擦をおこすのです。もうひとつは、広告市場のです。 広告のクライアントはグローバルなビジネスリーダーに届けたいからです。ただし、将来有料化の可能性を否定しているわけではありません。

ネイティブ広告とアルゴリズムを問う

次いで藤村氏は、「ネイティブ広告」と「アルゴリズム」について、テーマを投げかけた。

リッチ:ネイティブ広告については、どのように実行するかによって変わってくるでしょう。必須なことはユーザーに、広告であることを明確に伝わることです。広告であることを伝えないケースが多い。 もうひとつは、ユーザビリティです。ネイティブ広告といえども、そのために、メディア本来のコンテンツが隠れることはあってはならないのです。たまにクリックすると、すぐにAppStoreに行くようなコンテンツがあります。ユーザーに対して、環境が変わることをきちんと伝えるものでなければならないと考えます。 またコンテンツを表示するアルゴリズムは、強力なツールです。伝統的な新聞の時代は、記事は万人すべてのものであったため、自分自身が必要とするものを見つけていくことが必要でした。今では、自分の目的に沿ってコンテンツを得ることが出来ます。そして自分自身の関心だけでなく、他の人にとって重要視している内容から、興味のあるコンテンツに拡張していくアルゴリズムの可能性があります。

ケヴィン氏はアルゴリズムはまだまだ洗練が足りないという。

ケヴィン:ディスプレイ広告とネイティブ広告の2つがありますが、ネイティブ広告の場合、メディアが広告クライアントと直接やりとりすることが大きな違いです。クライアントはユーザーにシェアしてもらえるような広告を望んでいるのです。ビジュアル面でも、内容面でも、読者に訴求できるようなコンテンツが求められています。 アルゴリズムについては、まだまだイノベーションの余地があるといえます。大量なデータから、もっと洗練されたニュアンスによる、高度なアルゴリズムが必要だと思います。

デジタルメディアとジャーナリズムについて、米国のメディアの状況から多くの課題と可能性が提示された。米国のメディアとジャーナリズムの世界で起きている破壊系のイノベーションは、日本にも到来することを予見することを示唆していた。

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