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スマホ時代のビジネスを支える“保証”

デジタルマネーでの賃金支払い制度「ペイロール」解禁の議論に不正送金問題が与える影響

第2回

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 前回、スマホ時代のサービスにおけるUXの追求とリスクの関係について保証の観点から解説しました。まさにその“リスク”に関わる問題として、ドコモ口座に端を発する不正送金問題が起こってしまいました。本稿では、この問題が、まさに解禁の議論が開始されている「ペイロール」の議論にどのような影響を与えることになるかを解説したいと思います。

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スマホ時代の新たな賃金支払い制度「ペイロール」とは?

 現在、厚生労働省を中心として「ペイロール」の解禁に向けた議論が行われています。ここでの「ペイロール」とは、「スマホ上のウォレットやペイロールカード(資金移動業者)の口座にデジタルマネーで賃金を支払うこと」を意味します。

 日本では、労働基準法によって各労働者の賃金(給与)は、会社から労働者本人に現金で支払うか、例外として銀行口座や証券総合口座への振り込んで支払うことと決まっています。この賃金の支払い方法について、「今後は、資金移動業者の口座(○○PayのウォレットをイメージいただければOKです)への支払いも認めても良いのではないか?」という議論が、ここ数年厚労省を中心に行われているのです。

 日本国内でペイロール解禁が求められている背景には、

  • 社会的・公共的なニーズ
  • 資金移動業者のニーズ
  • ユーザーのニーズ

の3つがあります。

 1つ目の社会的・公共的なニーズとは、まさに国を挙げて取り組んでいる「キャッシュレス化の推進」です。みずほフィナンシャルグループは、現金の取り扱いに年間約8兆円のコストが発生していると試算しています。この現金関連コストの削減や、生活保護など公的支援向上、インバウンド盛り上げといった複数の目的から推進されているキャッシュレス化ですが、「ペイロール解禁」もそれらの目的の1つとして検討されています。

 次に、資金移動業者のニーズについてご説明します。2020年8月末現在、PayPayやメルペイをはじめ、77社の事業者が資金移動業者として財務局に登録されおり、それぞれユーザーが開設したウォレットにチャージして利用してもらうというサービスになっています。このチャージや出金の手数料が各事業者にとっては大きな負担となっており、入金フローや出金フローに関する銀行手数料やネットワーク処理料が高いのではないかという議論すら生じているほどです。ペイロールが解禁されれば、ウォレットに直接賃金がチャージされることになり、ユーザー自身のチャージは不要になります。つまり、資金移動事業者は、手数料負担が軽減されるようになります。また、ユーザーの賃金が直接ウォレットに入るということは、各社事業を推進する上での選択肢が増えることになります。資金移動業者としても、ペイロールの解禁は望ましいことだといえます。

 3つ目はユーザーのニーズでは、「チャージレスで買い物をしたい」「銀行に現金を引き出しに行く時間や、ATM利用手数料を節約したい」というニーズが挙げられます。それに加えて、在留外国人の視点で特に多いのは、「海外送金を早く、かつ安くしたい」というニーズです。日本で就労している外国人労働者約165万人のうち、大半が稼いだお金を自国に送金していると考えられています。銀行での海外送金の手数料や、送金に時間がかかること、そもそも日本国内に銀行口座を開設する手続きが複雑だということは、彼らにとってすぐにでも解決したい課題なのです。

 これらのニーズがあることから、ペイロール解禁に向けて国も動き始めました。2020年7月には、新たな生活様式に対応した規制改革の推進のため、あるいは外国人材の受け入れ・共生のため、「デジタルマネーによる賃金支払い(資金移動業者への支払い)の解禁を早期に実現すること」が閣議決定されています。そして、8月27日に開催された厚生労働省の労働政策審議会の労働条件分科会(労政審)で、本件が議題に上がることとなりました。これ以降は、労政審の場で解禁に向けて論点を紐解き、省令の改正文案の検討、公表からパブリックコメントの募集手続きに向けた流れ等を決定していくことになります。つまり、労政審の場で議論が開始されたということは、早ければ数ヵ月以内にもペイロールが解禁される可能性が高まってきたことを意味します。

 そのタイミングで発生してしまったのが、ドコモ口座に端を発する不正送金問題です。次のページでは、この問題がペイロールの議論に与えうる影響について掘り下げていきます。

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この記事の著者

小山 裕(コヤマ ユタカ)

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