誰もが起案者にも応援者にもなれる関係がクレイジーキルトを生む
吉田:先程のアンケートの中で、「新規事業に関わる社内の経験・知見を共有している」という項目も大事ですね。大企業で新規事業をやることの意味がここにもあると思うんです。
スタートアップや小さい組織ですと、たくさんの新規事業をやることはできませんが、大企業は一度にいろいろな取り組みができます。大事なのは、失敗してもそれを学習として、もう一段上のレイヤーで蓄積していけるかです。失敗したやり方を貯めると逆に成功するやり方が見えてきます。うまく失敗しながら蓄積していく仕組みを持っているかどうかが重要ですよね。
大長:例えばリクルートは新規事業提案の制度が有名ですが、一つ上のレイヤーにそのノウハウが溜まっていくんですよね。その重要性が分かっているから成果発表会なども熱心にやるし、そこで没になった案を知った他の人が乗っかってきて、プロジェクトを再起動させるようなことも起きたりするんだと思います。
吉田:うまくいかなかったことも含めて情報がオープンにされるから、「自分の思いとつながるから乗っかろう」というクレイジーキルト的なパートナーも現れるということですね。
私は、誰もが起案者になれるだけでなく、それに対して誰もが応援者になれる関係というものがすごく大事だと考えています。それが、この調査結果にも現れていると感じました。
大長:これまでの企業は、役割があってそのための人を調達するという考え方だったわけです。でも成功する企業は、思いに共感し、テーマに意味を感じて参加する人を集めていくというクレイジーキルトのやり方に変わっていっているんでしょうね。
──成功企業の回答割合が高かったものには「評価方法や撤退基準を設定し意思決定している」もありました。新規事業開発における意思決定の基準についてはどのようにお考えですか。
大長:うまくいっていないのに終わらせることができずに“ゾンビ化”してしまった事業がたくさん残っている、という相談を受けることもあります。僕はきちんと終わらせるべきだと思うのですが、その判断基準がはっきりしていない会社さんが多い。僕らが相談を受けたら、まずは自分たちがどこに事業をつくっていきたいのか、それをメンバーに示しましょうと言います。でも、それを「役員の仕事です」と言うと、全然進まないんですよね。
吉田:そうなんですか?
大長:「自分たちの判断で新しい機会を潰してしまうかもしれない」という意識が働くようです。ですが、経営陣にとって関心のない領域のアイデアが選ばれることは、ほぼありません。であれば、最初から方向性を示した方が良いはずです。
吉田:新規事業をやる人にとっては、経営陣もクレイジーキルトのパートナーとして捉えられると思うんです。大長さんのおっしゃることは、会社としてどういう「手中の鳥」を持っていて「許容可能な損失」はどこまでかということが明確であればパートナーになることができるし、そうでなければうまく組めない、というお話なのかもしれませんね。