人事システムという後進地帯:なぜ人事はデータ活用が出来なかったのか?

ワークデイ株式会社 代表取締役社長 金翰新 連載【第二回】

Workday 社長 金氏の寄稿「データ活用によるHRイノベーション」 第二回の今回は、なぜ人事領域のIT化が遅れているのか、人材管理の分野でデータ活用が出来てこなかったかについて論じます。

[公開日]

[著] 金 翰新

[タグ] タレントマネジメント ワークスタイルIT HRテック

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ERPやBIの派生物の人事システムの限界

人事におけるデータ活用の可能性についての議論が聞かれるようになった。
しかし、実態はどうだろうか?

 今回は、まず人事におけるデータの現状についてみてみたい。人事システムはERP(Enterprise Resource Planning)の一部として1980年代から導入が進み、製造・物流・販売・調達・人事・財務会計などを管理するための業務システムとして活用されてきた。

 人事においては給与支払いなどの事務処理が業務の大半を占めることから、戦略システムというよりも、事務処理のためのシステムとして位置づけられてきた。
 一方で、人事システムが管理する役職に応じた権限情報は、その他の財務システム、販売システムなどへのアクセスコントロールの根拠として参照されてきた。例えば、関東エリアの営業部長であれば、関東エリアの売上情報にアクセスできるが、他のエリアにはアクセスできないというように、人事情報と紐付いてアクセス権限が付与されているのである。よって、人事情報は他のシステムとの連携が必須要件となり、また多岐に渡るシステムと連携するために非常に複雑になる。もちろん、組織変更があれば、人事システム側で新しい役割や権限を設定し、その設定が他のシステムに反映されることも当然の要件になる。

 異なるシステムを強引に連携するようなシステム構築をしている場合、システム間の連携に関わるインテグレーション構築コスト(時間と費用)は、システム費用全体の7−8割にのぼるとも言われている。しかも人事データは、統合システムにおいて肝になる部分であるため、ここを再構築することは他システムとの連携を考えると慎重にならざるを得ない。それゆえ、他システムへの投資が優先されてしまい、結果ますます継ぎ接ぎだらけで時代から取り残されたシステムになるという悪循環があった。結果、人事データを活用するにも活用できず、データを蓄積するだけのシステムになってしまったのだ。

 こうしたシステム上の制約があるために、人を中心としたデータ活用、分析を行うための戦略的なレポートが必要な場合は、システムを継ぎ接ぎしながらレポーティングシステムを構築するためにBI(Business Intelligence)を活用する必要があった。ITシステムベンダーは、BIによってデータを一元化し、見える化することで、経営判断に役立ち、次のアクションにつなげられる、ということをここ数年訴えているが、現実にデータを経営判断に活用できている企業はほとんどないと言ってもよいだろう。

 それはなぜか。データが間違っているからである。データを収集する時点、入力する時点、統合する時点、それらのタイミングでデータに誤りが含まれると、統合されたデータの正確性は担保できない。さらに、データの収集、変換、精査、統合といった処理に時間がかかり、今のレポートを見られるのは半年後ということも少なくない。つまり、経営にデータを活用するという理想と現実にはまだギャップがあるのである。笑い話のようだが、弊社のクライアントの一つであるグローバル展開する企業では、システムの導入前は、新しく出店したロンドン支店の人数が何人か、本社では即答できなかった。電話をして現地の担当者に聞いても、その数字が正しいかどうかはわからない。しかし、他に調べようもない、というのだ。

 データ活用というトレンドは人事部門にも来ているが、そもそも活用するためのベースができていない、それが現状だと理解しよう。

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