海外事例から学ぶスタートアップとの協業──具体的な成果より大切な“価値の交換”

Creww主催「オープンイノベーションカンファレンス2017」セミナーレポート

 2017年4月25日に行われた「オープンイノベーションカンファレンス2017」にて、アメリカ・ヨーロッパ・日本、それぞれを代表するアクセラレーターの創業者が登壇し、スタートアップと大企業の協業の可能性や必要な要素について語った。オープンイノベーションに関しては日本より一歩先を行くアメリカやヨーロッパでは、どのようにスタートアップと大企業の協業が行われているのだろうか。

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[取材・構成] 近藤 世菜 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] スタートアップ 事業開発 オープンイノベーション スピンアウト カーブアウト

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 新規事業創出の一つの手法として注目されている、スタートアップと大企業のオープンイノベーション。スタートアップの画期的なアイデアや技術と大企業のリソースやノウハウが組み合わさることで、大きな価値を生み出すことができるというものだ。

 とはいえ、スケールも文化も大きく異なるスタートアップと大企業の協業は、一筋縄でいくものではない。2017年4月25日に行われた「オープンイノベーションカンファレンス2017」では、アメリカ・ヨーロッパ・日本、それぞれを代表するアクセラレーターの創業者が登壇。スタートアップの成長を最大化させる立場から、オープンイノベーションを起こすために必要な要素や姿勢について語った。

スタートアップと大企業の協業は、既存組織から“切り離して”行う

「今、必要とされるアクセラレーター ~オープンイノベーションの実現に向けて~」と題されたセッションに登壇したのはEDGE Edtechのドン・バートン氏、Rockstartのオスカー・ネップカーズ氏、Crewwの伊地知天氏。彼らはそれぞれアメリカ・ヨーロッパ・日本を代表するアクセラレーターの創業者である。モデレーターは、Crewwのアドバイザーであるティム・ロメロが務めた。

ティム・ロメロTim Romero(Creww Market Entry Advisor)

スタートアップと大企業の協業の障壁について

はじめの話題は、スタートアップの立場から見た大企業との協業の障壁について。

ティム:スタートアップと大企業は意思決定や新しい技術の適応のスピード感に大きな差があります。スタートアップにとって大企業のスピード感の遅さはマイナスにならないのでしょうか。

ドン:アメリカは基本的にアーリーアダプターが多く、たとえ大企業であっても意思決定や新技術の導入はスピード感をもって行っています。スタートアップはすぐにでも大企業のドアを叩いていくべきだと思います。

オスカー:スピード感の違いを心配するスタートアップはとても多いです。ただ大切なのはどのタイミングで協業を始めるのかということ。スタートアップが1年目で大企業との協業を目指すのは現実的に難しいと思います。ただ2、3年のうち、1,000日以内にはなんらかの技術や商品を確立して、大企業との協業を模索していくべきでしょう。そのとき、たとえスピード感が異なったとしても、スタートアップは自分たちのペースを守って事業を進めていって構いません。

伊地知:日本では、スタートアップがある程度成長した段階でないと大企業との協業は難しいでしょう。アメリカであればたった数人の承認があれば決められるようなことを、日本の大企業では2層にも3層にもわたる承認が必要です。そのスピード感の遅さはスタートアップにとってマイナスとなるでしょうし、そもそも芽が出る前にスタートアップと協業することを大企業は承認しません。安定した製品やサービスを持ち、ある程度成長したスタートアップが大企業と提携するのがベストです。

 三者三様の答えが出たものの、大企業の性質によって協業のタイミングを調整すれば、スピード感の違いはそれほど大きな問題にはならないようだ。それでは、具体的にどのようなかたちで協業を進めていけばいいのだろうか。

スタートアップと大企業の協業のかたち

タイトル(左から)Don Burton(元 Techstars NYC Managing Director, EDGE Edtech Co-Founder & Managing Partner)
伊地知 天 (Creww CEO & Founder)
Oscar Kneppers(Rockstart Founder)

ティム:スタートアップと大企業の協業はどのようなかたちで進めていくのが正解なのでしょうか。

オスカー:たとえばスピンアウトという方法があります。大企業のなかでスタートアップとの協業を目指している部門を切り離して外に出してしまうというものです。たとえば音楽配信サービスのSpotify(スポティファイ)とソニーミュージックの提携はスタートアップと大企業の協業の一事例ですが、これもスピンアウトの方法が採られています。大企業の外に出してしまうことで意思決定のスピードが速く、ビジネスが加速しやすいのです。スタートアップの事業は実験的なものですから、大企業の内部で進めるのは難しいでしょう。

ティム:ほかに、ニューヨーク・タイムズが取り組んでいる事例も、まさにスピンアウトを活用していますよね。

オスカー:そうですね。ニューヨーク・タイムズはオフィスの余ったスペースを開放して、メディア系のスタートアップに自由に利用させていました。だからスタートアップがどんな事業に取り組んでいるのか間近で見ることができた。その取り組みはすでに10年以上続いていて、スピンアウトしている事業も多数あります。

ドン:大企業にとって、スタートアップを内部に取り組んで育てるというのはかなり難しいことなんです。四半期ごとに業績を達成しなければなりませんから。かつて、内部に30以上の新規事業を抱える大企業からメンターを迎え、起業家たちのアクセラレータープログラムを実施したことがあります。その3か月間を通して、大企業側のメンターたちはスピード感の重要性を体感したようです。自分たちが内部で行っている新規事業は、なぜ起業家たちと同じようにできないのかと。

ティム:なるほど。アクセラレータープログラムにメンターとして参加することは、大企業にとって新たな発見につながるわけですね。

 大企業の内部で新規事業に取り組んでも、なかなかイノベーションが起こりにくいように、スタートアップが大企業に取り込まれるかたちになってしまうと、新たな価値創造につながらない可能性が高い。スタートアップと大企業の協業には、スピンアウトやアクセラレータープログラムへの参加という、組織から切り離された場所で行うのが最適なのかもしれない。

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