獺祭、ソニーから見る『つくる力』への考察

櫻井博志☓辻野晃一郎 対談 Vol.1

今や知らない人はいないと言っても過言ではない、日本を代表する銘酒:獺祭(旭酒造)を生み出し、昨年社長を退き会長となった桜井氏と ソニーのカンパニープレジデントやグーグル日本法人社長など名立たるグローバル企業のトップを歴任した後、自ら独立起業した辻野氏に、経営の極意についてそれぞれの経験を踏まえて語ってもらった。

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[提供元] 異端会議

[タグ] 事業開発

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順調に失敗中。失敗を見込んで進める。

桜井:今日は弊社の『獺祭』を辻野さんにお土産にしようと思って持ってきました。今日の話にちょうどいいと思いまして。

辻野:ありがとうございます。廃業寸前だった蔵元を、たった一代でここまで復活させ、日本を代表する日本酒にするまでには、様々なご苦労があったのではないでしょうか。

桜井:そうですね。獺祭 二割三分を生み出すために、技術的な面だけでなく、“常識”や“周囲の環境”にハードルがありました。

辻野:当初は周囲からの反対などもあったのでしょうか。

辻野晃一郎
慶応義塾大学大学院工学研究科、カリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。
ソニーカンパニープレジデント、グーグル日本法人代表取締役社長歴任後、現アレックス株式会社CEOを務める。早稲田大学商学学術院客員教授。『:出る杭は伸ばせ!なぜ日本からグーグルは生まれないのか?』など著書多数。

桜井:『アホか』とか、『磨いても何の意味もないぞ』など散々言われましたね。当時の日本酒業界では、精米歩合で50%以下まで磨いても、価値がないというのが常識だったのです。でも『本当にそうだろうか』と23%まで磨いてみたら、味が全然違っていました。米の芯の問題で、すべての米において、芯が中心にあるわけではないため、磨けば磨くほど余計なものをそぎ落とすことができたのです。最近は『獺祭よりも米をたくさん磨いています』というような酒蔵が出てきたので、業界の常識が変わってきたなと感じています。

辻野:私がソニー時代から大切にしている『出る杭たれ』というキーワードがあるのですが、新たなものを『つくる』ためには、周りの意見や場の空気ではなく、自分の信じる道を貫いて必ず結果を出す馬力が必要だと思います。桜井さんは、日本中の日本酒メーカーだけでなく、伝統工芸品を作っているような人たちのまさにロールモデルだと思いますよ。

桜井:『つくる』というのは、最初からは上手くいかないものなのです。上手くいかないから、やってみて失敗しながら直していくしかないと思います。実は今、ジョエル・ロブション氏と組んでパリにお店を出そうとしてるんですけど、それは2017年春だって言っていたのが順調に遅れて夏、下手したら秋になるんじゃないか、となっています。もっと言うなら、そのジョエル・ロブション氏とのパリ出店の話が出てきたのも、失敗から生まれたものなのです。別でパリにお店を出す計画をして、実際に私がパリで物件まで探して出店する準備をしてたんですが、結局だめになり撤退してしまったのです。でもそれがなければロブションと組むという今の話って出てこなかった。まずはどんどん踏み出していって、上手く行かないから失敗して、修正して、というのを繰り返さないと新しいものは出来ないのだろうと思います。

辻野:失敗に対する捉え方ですよね。失敗も次につなげて、上手くいくところまで粘り強く頑張れば、失敗に見えたことも失敗ではなくなります。良きストーリーになって、成功したあとの美談に変わるわけですよね。特に経営視点だと、会社を存続し続けられている限りは、ある意味失敗じゃないんだと思います。

桜井:その通りだと思います。あと今、ライスミルクという米ぬかで飲料を作っているんですが、それも当初の計画みたいには全然上手くいっていないです。順調に失敗中ですね(笑)

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