製造業のリデザインに必要な「オンラインシフト」と「バリューチェーンの最適化」とは?

第2回:株式会社アペルザ 代表取締役社長兼CEO 石原誠氏 インタビュー 後編

 かつて「モノづくり大国」の名をほしいままにしてきた日本。近年の低価格化競争に疲弊し、際立つイノベーションも見当たらない中、インターネットの力で「ものづくりの産業構造のリデザイン」を目標に掲げ、注目を集めるスタートアップがある。キーエンス出身の石原誠氏が代表取締役を務め、IBM、楽天出身者などが経営メンバーに名を連ねる「アペルザ(aperza)」だ。どのようにして日本の製造業を活性化するのか。そのためには何が必要なのか。本連載では、製造業に関するスタートアップ経営者やコマース事業者、プラットフォーマーなどをゲストに迎え、「モノづくりニッポン復興」をテーマに対談を行う。第2回は、製造業に舞い戻った石原氏のアペルザ設立の経緯を起点に、業界構造リデザイン構想の背景、考え方などについて伺った。

[公開日]

[語り手] 石原 誠 [取材・構成] 伊藤 真美 [写] 南方 英作 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] スタートアップ 製造

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急成長中の教育ベンチャーを飛び出し、製造業で起業した理由

——新卒入社のキーエンスで新規事業「イプロス」を成功させ、その後キーエンスを飛び出して設立したベンチャー「POLYGLOTS」で英語リーディングのアプリを成功させる。しかし、それがほんの3年前です。まさにジェットコースターのような展開ですが、なぜ新たな教育分野の事業を成功させ、再度、製造業の世界に戻ってこられたのでしょうか。

 実はキーエンス時代の先輩が、製造業に特化したコンサルティング事業で起業していて、それを手伝ったことが大きなきっかけになりました。その先輩は、天野眞也というのですが、キーエンスでは、その名を知らない人がいないという伝説の営業マンでした。そんな彼から、ある時、「自分は“地上戦”は得意だけど、デジタルマーケティングのような“空中戦”が苦手なので、少し手を貸してもらえないか」と相談がありました。提案相手というのは名だたる大企業だったのですが、かつてのイプロス時代に「やりたかったけれど、やれなかったこと」の話をすると非常に盛り上がり、大きな取り組みへと繋がったのです。やり残したことを思う存分やれるのは、予想以上に大きな喜びにつながり、それで製造業に思いが戻っていったんです。

 前回、事業を成功させるための条件として「急成長する市場」「テクノロジードリブンな市場」を挙げましたが、最も重要なのは「どこでビジネスをするか」という「市場選択」です。必ずしも大きければ大きいほどいいというわけではないですが、英語教育と製造業では市場規模が格段に違います。そのスケールや社会へのインパクトの大きさが懐かしく、同時にうらやましくも感じたのです。

 ちょうど「インダストリー4.0」というキーワードが盛んに語られるようになりはじめたのもこの頃でした。市場規模が大きくても変化がなければ単に大きいだけですが、「インダストリー4.0」のような外部からの大きな刺激が加われば、市場はガラッと変わり、そこに大きなビジネスチャンスが生まれるだろう。

 まさに急成長のタイミングが到来している。気づいたら、居ても立っても居られなくなったのです。

——面白いものを2つも抱えて、欲張りですね(笑)。それで、その後どうなったんですか?

 はい、相当困りました(笑)。冷静になって何度も繰り返し考えたのですが、結果的には3つの理由で製造業に戻って再スタートすることを決意しました。

 1つ目は、どちらが、「より本気」になれるかということです。イプロスを成功に導くことが出来たのは、本気になれたからです。しかも、それが持続したから大きく成長させられたのだと思います。教育産業と製造業の双方で、それぞれやりたいことを自分に問いただし、それを継続してやり抜くことができけるかを考えました。

 2つ目は、失敗した場合のことを考えました。教育において門外漢の自分は、何だか色々と言い訳が出来そうな気がしますが、逆に製造業に戻って失敗した場合、本当に後がない。そんな状況が、最後の部分での踏ん張りにつながるのかなと。諦め悪く粘ることができると思ったのです。

 3つ目は「誰とやるか」です。ちょうどその頃、アペルザの現COOである田中大介に出会うのですが、彼とは得意な領域が全く異なるものの、事業に対する価値観が面白いほど一致していて、強いシンパシーを感じました。ビジネスはフェアにやろう、やるからにはグローバルにスケールさせたい。価値観の深いところまで一致していた田中となら、大きな課題に挑戦できそうだと確信している自分がいました。一方、たまたま行ったシンガポールで現CTOの塩谷将史に出会いました。彼は楽天で働いていたのですが、テクノロジーだけにとどまらず幅広い知見を持っていて、東南アジアの事業環境について経営者視点で語ってくれたのを今でも覚えています。私と田中、塩谷の三人は、ちょうど正三角形を成すように、それぞれの得意領域が住み分けられています。でも核心の部分はきれいに一致していて、この3人がチームを組んだらと想像するだけでワクワクが止まりませんでした。

 そんな流れでアペルザの起点部分が出来上がり、始めると同時にすごいスピードで物事が進んでいきました。こんなふうに振り返ってみると、本当に優秀な人に助けられてずっとやってきたなあ、としみじみ感じます。私には、どうやら「ほっておけない」ところがあるようで(笑)、優秀な人が「仕方ないなあ」と協力してくれますね。現在、アペルザの社員は50名を超えるほどになりましたが、採用活動をせずとも、知り合いの紹介などで集まってくれた優秀な人ばかりなんです。

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