クリステンセン教授の「ジョブ理論」に影響を与えたODI(アウトカム・ドリブン・イノベーション)

ブックレビュー:“Jobs to be Done: Theory to Practice ”

[公開日]

[著] 津田 真吾

[タグ] 事業開発 企業戦略 job to be done ジョブ理論 顧客のジョブ 顧客体験 アンメットニーズ ODI

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ODIを用いたケーススタディ マイクロソフトとボッシュの場合

 本書には、実際にODIを用いた6社の事例が紹介されている。その中でも、馴染みのあるマイクロソフトとボッシュの事例を紹介する。

マイクロソフトのメンテナンスビジネス

 マイクロソフトの法人向けボリュームライセンスであるソフトウェアアシュアランスが伸び悩んでいた。IT部門の予算が厳しく管理されるようになると、顧客は喜んで導入するわけにいかず、部門は危機を迎えていたという。「ソフトのバージョンアップに便利な仕組みである」という社内認識の一方で、顧客視点では「わざわざバージョンアップはしたくない」というギャップが根底にあった。

 そこで、ODIの訓練を受けた調査員が顧客の購買担当者とIT部門をインタビューし、期待アウトカムを調べると、約100のジョブが見つかった。顧客ジョブの中でも、メンテナンス、教育、パッチ当て、セキュリティに関連するジョブに課題が多く、特に古いPCを廃棄する際に大きな課題があることに気づいた。他には、導入したソフトの数を把握することや、社内のセキュリティ違反を把握することが顧客にとっては困難な作業だということも新たな発見だった。それまではソフトウェアを購入する瞬間の顧客しか知らなかったマイクロソフトは、ソフトウェアの管理や運用にわたって顧客のジョブを知ることができたという。

 発見されたジョブの解決策については、当時すでに実在していた。多くは派生的なものとして個別に対処するメンテナンスツールが提供されていた。しかし、ソフトウェアアシュアランスとしてはバンドルされておらず、顧客には使い勝手の悪いものであった。マイクロソフトは一つのパッケージにまとめることで、ソフトウェアアシュアランス製品の魅力を高め、営業マンも喜んで提案することができるようになった。

ボッシュの北米参入

 丸形の電動ノコギリ(丸ノコ)は成熟した製品であまりイノベーションの余地はないものだと思われていた。しかし、ボッシュは北米市場に参入する際、ODIプロセスを活用し有効な参入戦略で市場シェアを獲得することとなった。

 職人を対象に行った調査の結果はかんばしいものではなかった。やはり既存の工具に満足している職人が多いという結果だったのだ。しかし、顧客ジョブごとに分析することで木材を直線に切るだけでなく、角に切る人や、仕上げを行う職人には課題があることが判明する。その顧客セグメントでは85件のジョブのうち、14が充足されていないということが判明したのだ。

 これらの課題を解決するため、ボシュはコードや照準を改良したCS20を開発し、北米に投入する。職人や専門誌にも高評価を受け、ベストセラーになった。この製品は決して電動ノコギリとして高性能だったわけではなく、職人の仕事をしやすくしたという点はデザイン思考の事例としても取り上げることができるものだ。

バックナンバー