AI+IoT時代に変わるビジネスの常識

今回から、ITコンサルタントの斎藤昌義さんの連載講座をお届けします。 事業開発者やビジネスリーダーにはこれからのITのトレンドの理解と活用は必須。 事業の差別化や競争優位を築くためにIT活用は必要だと考えているイノベーションリーダーの方向けに、「既存事業に新たな魅力を与え、新規事業で圧倒的な競争優位を築くためのITの新しい常識と活かし方」を解説します。

[公開日]

[著] 斎藤昌義

[タグ] IoT AI ITトレンド

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5年後のITで何ができるようになるのか

「山田産業の過去3年間の業績を調べてくれないか?

いつものカフェのソファーに沈み込みながら、タブレットに語りかけた。

「こちらが山田産業の過去3年間の業績です。」

こんな応答と共に、きれいなグラフと業績を要約したレポートが表示される。それを一読し、さらに次のような質問をする。

「この3年間、売上は維持しているが営業利益が年々落ちているね。その原因は何だろう?」

「主力製品であるジェンテックの利益率が低下していることが理由と考えられます。競合のA社とB社が同様の製品を出してきたことで、価格競争となり、市場価格が下がったためです。市場規模が拡大していることで出荷量は増えていますが、販売価格が下がっているため売上金額が伸びません。また、原価率が高まったことで営業利益を下げているようです。」

「では、A社とB社と業績を比較してくれ。」

「こちらがA社とB社との比較です。」

こんな回答と共に、業績の内訳とグラフが表示される。なるほど、A社もB社も売上は伸ばしているが、営業利益には苦しんでいることが明確に示されていた。

「山田産業にこの状況を改善するための提案をしたいと思う。どういう対策が考えられるだろう。過去の提案事例から調べてくれないか?」

「この3つの提案事例が、今回のケースには有効と考えられます。」

そう言って、3つの提案タイトルと提案内容の要約が提示された。ひとつひとつ見てゆくと、なぜこの提案が有効なんだと首をかしげるものがひとつあった。そこでその提案資料を詳しく見ようと、画面に表示されたタイトルをタップする。
なるほど、確かに業界はまるで違うが、状況は似ているようだ。しかも、期待される効果がかなり大きい。

「この提案先の業績を表示してくれないか?」

「承知しました。」

それを見ると確かにかなりの改善が見られる。なるほどそういうことかと合点がいった。

「この提案書と関連資料を私のファルダーに入れておいてくれ。」

さて、オフィスに戻ろう。これから、提案書をまとめなくちゃならない。


5年後の営業の現場では、こんなことが当たり前になっているかもしれません。機械は人と音声で対話し、曖昧な表現であってもこちらの意図を理解してくれます。膨大なデータから、こちらの意図に合わせて必要なデータを見つけ出し、わかりやすく要約して提供してくれます。また、多数の過去の事例を分析し、なかなか気付かない関連性や特徴を見つけ出しアドバイスもしてくれるでしょう。

米国では1000万台に迫る売れゆきを見せる音声認識デバイスAmazon Echoが登場し、既に1万5千を超えるオンライン・サービスや家電製品などに対応しています。それを追うようにGoogle HomeやApple HomePodなどが、この分野での主導権を握らんと熾烈な競争を繰り広げています。この競争は、音声認識の技術を加速度的に向上させ、適用分野も急速に拡がり、家電製品や自動車などに音声認識機能が搭載されるのは当たり前になるでしょう。

これまで、ITはその使い方を学ばなければ使えませんでした。それには専門知識と経験による習熟が必要でした。しかし、音声は私たちの日常のコミュニケーション手段です。それを使うのに訓練はいりません。曖昧な表現であってもこちらの意図をくみ取って理解しようとしてくれる技術と共に「人に寄り添うIT」の時代が到来しつつあるのです。

また、AI(Artificial Intelligence/人工知能)の1つの技術である機械学習も、新たなアルゴリズム(計算や問題を解決する方式)や専用LSIの開発が進み、高度な分析を高速で処理できるようになり、その進化は留まることを知りません。それらはオープンソースソフトウェア(OSS/無償で公開されているソフトウェア)として提供され、誰もが容易に利用できるようになっています。さらには、専門的な知識がなくても、何をしたいか、何を知りたいかがはっきりしていれば、期待する結果を出してくれるクラウド・サービスも登場しています。

機械学習の技術を使えば、人間の経験や勘では見つけられなかった膨大なデータの中に隠された関係性や規則性を見つけることができるかもしれません。
かつてガリレオは、望遠鏡で月を観測して、それが天体であることを明らかにし、木星を観察して、そこに4つの衛星(月)があることを発見しました。彼は、望遠鏡という最新のテクノロジーによって人間の目にはよく見えない知識を得ることができるようになったのです。

機械学習もまた、人間の観察では見えなかったことを明らかにしてくれるかもしれません。人間は新たな視点を手に入れ、深い知識と新たな知見を手に入れることができるようになるのです。

IoT(モノのインターネット)もこれまでの常識を大きく変えようとしています。膨大な数のモノに埋め込まれたセンサーにより、現実世界の様々な出来事をデータとして手に入れることができるようになります。これまでの経験や勘に頼るのではなく、センサーで集められたデータという事実に基づいてものごとを理解し、人工知能の技術を使い最適な解決策を見つけ、ビジネスや社会を動かしてゆく仕組みが作られようとしています。その膨大なデータ、すなわちビッグデータを解釈するには、単純な統計的手法では限界があります。この課題を解決するために、先に紹介した機械学習が大きな役割を果たします。

このようなIoTによって、社会やビジネスの効率化が進み、高品質なサービスや商品を低コストで、しかも迅速に手に入れることができるようになるでしょう。また、省エネルギーや環境負荷の低減などにも成果が期待されています。また、そのデータを解析することで、機械の故障発生の可能性や時期、あるいは、健康上の課題と将来の病気など、様々な「未来」を高い精度で予測もできるようにもなります。

このようにITはこれまでの常識を上書きし、新しい常識に置き換えようとしています。これからのビジネスは、この新しい常識を前提に考えてゆかなければならないのです。

本記事の参考プレゼン資料が日立製作所『Hitachi IoT Platform Magazine』からダウンロードいただけます。
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