KDDI、ソラコム買収で見えてきたIoT時代の戦略の構図。両社のキーパーソン語る

KDDIがIoT通信ベンチャー企業であるソラコムの株式を大量取得し、連結子会社化したというニュースが業界の話題をさらった。一部メディアでは200億円を超える完全取得と報じられたが、総額は公表されていない。さまざまな憶測や議論が起きる中、8月8日にKDDIとソラコムのキーパーソンによる共同の記者会見がおこなわれ、両社のグループ化のシナジーや戦略的位置づけが公表された。また、ネットではこれまでのソラコムのビジネスの体制と独立性が損なわれるのではないかという危惧の声が散見されたこともあり、両社からはその危惧を払拭する見解も述べられた。

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[著] 京部康男 (Biz/Zine編集部)

[タグ] IoT ソラコム

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KDDIがソラコムを買収するメリットは計り知れず

KDDI バリュー事業本部 本部長 新居眞悟氏/KDDI ソリューション事業企画本部 副本部長 藤井彰人氏/
ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏

記者会見に登壇したのは、KDDIバリュー事業本部 本部長の新居眞悟氏、ソリューション事業企画本部 副本部長の藤井彰人氏、ソラコム代表取締役社長の玉川憲氏の3名。

冒頭、KDDIの新居氏は、ソラコムを「IoTベンチャーの雄」と称し、今回の子会社化がKDDIにとって大きな収穫であることを述べた。ソラコムとKDDIは昨年「Soracom  vConnect Core」を活用したIoT向け回線サービスで協業を行ってきており、KDDIの技術部門や運用部門でもソラコムを非常に高く評価してきたと述べた。今回の買収によってKDDIの通信基盤の上に、ソラコムの開発力が加わることになるという。

KDDIバリュー事業本部 本部長 新居眞悟氏

KDDIにとって、ソラコム子会社化のメリットは計り知れない。デバイスや機器からのデータを収集するソラコムのビジネスは、さまざまなモノがつながるIoTの時代にあって重要な意味を持つからだ。
すでにKDDIは、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の導入サービスでの最大企業のアイレットや、アクセンチュアとのジョイントベンチャーによるデータ分析企業ARISE analyticsなどを有している。たとえばこれらの企業群との連携によりエッジから収集したデータをインサイト化するなどのビジネスやサービスが創出できる。「必要なケイパビリティが揃った」と新居氏は言う。

一方のソラコムにとっては、これまでベンチャーゆえの営業面での限界があった。同社のサービスはWebで特化してきたため、法人の大量導入などには限界的な面もあった。KDDIの実績の7000に登る実績企業に対して、ソラコムとの共同のビジネスを提供していくことも大きな商機につながるという。

クラウド創世記のリーダー同士でタッグを組む

KDDI ソリューション事業企画本部 副本部長 藤井彰人氏

今回、KDDIのもうひとりのキーパーソンは藤井彰人氏。藤井氏の前職はGoogleで、法人向けのクラウド事業を推進していた。一方の玉川社長の前職は、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)。クラウドの創世記を開拓してきた元エンジニア、エバンジェリストという共通点を持つ二人が、今後タッグを組むことになる。藤井氏は「玉川氏とこういう形で再び出会えたことが嬉しい」と述べる。

 藤井氏は「わずか2年で世界各国で利用可能なサービスを展開し、600以上のパートナーを獲得したソラコムの開発力」に着目したと語り、こうしたスピード感はこれまでのKDDIになかったものだという。その開発力を活かして「全方位型のIoT」を目指すと言い、具体的な取組みは明かさなかったが、すでにプロジェクトは始動していることを暗示した。また、ネットワーク仮想化などの「SDx」技術とソラコムのソフトウェア開発を掛けあわせた次世代ネットワークの開発にも着手しているという。

「これはエグジットではない」ソラコム玉川氏

ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏

ソラコムの玉川社長は今回のM&Aは「大きなマイルストーン」であり、KDDIとは密な議論を重ねてきたと述べる。また、発表以降のネットで、ソラコムの独立性や存続に対しての不安が語られていることに対して、「いろいろ心配されていますが、私も含めていなくなってしまうということはありません(笑)。エグジットではなく、単独で出来なかった領域に道を拓くためのエントランスです」と決意を語った。

玉川氏が紹介したKDDIグループ参画への意義とは、以下の内容だ。

  • セルラーLPWA/5Gのサービスをキャリア参加に入ることでいち早く開始できること。
  • KDDIの通信ネットワーク基盤とソラコムのクラウドネイティブ技術を組み合わせた次世代ネットワークの基盤構築
  • KDDIの海外でのパートナーシップや事業拠点を活かしたグローバルな営業力の獲得
  • 資金調達、リソースによる安定基盤

それにしてもなぜKDDIなのか。ソラコムはこまでも、NTTドコモのMVNO事業者であったし、エッジデバイスから接続する基地局はNTTドコモを利用していることも競争力の一つとしてあった。またベンチャー界隈では「日本発の技術ベンチャー」として、海外IPOを期待する声もあった。一部メディアで報道された200億は膨大な金額とはいえ、海外での資金調達の可能性まで視野に入れれば法外とはいえない。また海外展開への布石であれば、当然NTTドコモやソフトバンクからのオファーも想定されたはずだ。

独立性や継続についての質問に対し、玉川氏は「ソラコムはこれまで通りIoTプラットフォーマーとして事業を継続する」と言い、そのオープン性や独立性は損なわれないという。またNTTドコモ回線利用の既存サービスや海外キャリア回線を用いたサービスも変わらず継続することを強調した。

会見を通じて語られた内容からうかがえるのは、今回のグループ化は、KDDIにとっては「M&Aビジネス」ではなく、事業シナジーを狙ってのIoT時代の戦略であり、ソラコムにとってはグローバル化への挑戦の発射台だということだろう。こうした選択が正しいかどうかは今後の両社の展開次第であり、それは日本のIoTの今後を大きく左右するだろう。新居氏は「KDDIグループとなることでソラコムの事業価値はさらに増進する」と自信を見せる。
玉川氏は、「Still One Day」という言葉をあげ「今日が常に初日であり、第二の創業」の気持ちでいると述べ、「今後KDDIグループとして邁進し、日本発のグローバルプラットフォームを作る」と熱意を語った。