CVCファンドのメリット、デメリット―「事業シナジー創出」を実現する“5つの視点”

第7回:M&Aインサイト

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[著] 青木 義則 [提供元] M&A Online編集部 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] 事業開発 企業戦略 M&A コーポレート・ベンチャー・ファンド

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2. 事業シナジー創出で押さえておくべき5つの視点

 ここでは、CVCファンドを活用してベンチャー企業との協業を推進していく上で押さえておくべき視点を提示したい。筆者は、これまでのCVCファンド運用サポートの経験から、CVCファンドを運用する大企業が成果を出すためには、以下の5つの視点を持って、自問自答を繰り返しながら運用していくことが肝要だと考えている。

  1. 目的は明確になっているか
  2. しっかりとした体制で臨めているか
  3. 投資先経営者との信頼関係を構築できているか
  4. 目標達成までのストーリーを持てているか
  5. マーケットサイクルを意識できているか

 以降では、上記のそれぞれについて説明をしていきたい。

1.目的は明確になっているか

 大企業がCVCファンドを設立する目的は何であろうか? これは、簡単なようで、実は難しい問いである。多くのCVCファンド関係者は「ベンチャー企業のアイディアを活用して新規事業を創出する」「ベンチャー企業との協業によりコア事業を強化する」といった事業シナジー追求を目的として掲げていると思うが、可能であれば、そこから更に一段深掘りし、考えを深めてみることをお勧めしたい。

どのような新規事業を立ち上げたいのか? 事業シナジーとして、具体的に何を期待するのか? 対象となる事業領域はどこか、プロダクト/サービスに投資をするのか、要素技術への投資もOKなのか、人材獲得目的の投資もありなのか? それらを考えたときに、設立間もない(社員数人)のベンチャーも対象となるのか、事業が十分に回っているミドルステージ以降のベンチャー企業を対象とするのか? 財務リターンはどの程度必要なのか? IPO(新規株式公開)レベルの高いリターンを狙うのか、(事業シナジーが主目的なので)ファンド全体で収支トントンでも良いのか?

 「目的」の議論を深めることによって、上記のような様々な問いに対して答えることが出来るようになり、結果として、投資対象のイメージがより具体化するのである。なぜこのようなことを勧めているかというと、投資対象のイメージが曖昧なまま取り組みを行うと、投資実務を行っている現場では、投資そのものが目的化してしまい、投資実績の案件数は積み上がるが、そもそも何をするためのCVCファンドだったのかわからないようなポートフォリオとなってしまう危険性があるからである。

 これは、CVCファンド担当者の評価体系とも関係しているかもしれない。ファンドの多くは、運用期間が7~10年、そのうち投資期間は最初の3~5年、残りは投資回収(EXIT)の期間と設定されるため、最初の数年間は、CVCファンド担当者は投資件数で評価されることになる。結果として、現場担当者には、1つでも多くの投資案件を積み上げたいとのインセンティブが働くのである。そのため、本来の目的に合わない投資を避けるためにも、CVCファンド設立の目的を明確にし、しっかりとした投資対象イメージを関係者で共有することが重要となるのである。

 次に、少し目線を変えて、CVCファンドの目的である事業シナジーと、ファンドとしての財務リターンの関係についても考えてみたい。CVCファンドが事業シナジーを主目的とすることは既に述べた通りであるが、では、財務リターンはどの程度求められているのであろうか?

 2008年にアメリカ国立標準技術研究所が実施した調査によると、図表3に示すように、実に70%のCVCファンドが事業シナジーと財務リターンの両方を求めていると回答している。これは、筆者が国内でCVCファンド関係者と接してきたときの感触に近く、国内でも同様の傾向にあると思われる。

 このように「両方を求める」というところが実は曲者であり、CVCファンド設立の「目的」が曖昧であると、CVCファンドにおける投資の意思決定においても判断がぶれてしまうのである。目的や投資先のイメージが曖昧なままだと、個別案件への投資可否を決定する投資委員会において「技術は良いけど儲からなさそう」「儲かりそうだけど事業シナジーが弱い」といった議論が毎回繰り返され、案件ごとに場当たり的な意思決定が下されていく(又はどの案件も意思決定できない)危険性があるのである。

 そのような事態を避け、一貫性のある意思決定を行う上で、CVCファンド設立の目的や投資対象イメージを具体化することは非常に重要なポイントとなる。ただし、ベンチャー投資に不慣れな場合などは、具体的な投資候補案件を検討する前にCVCファンド設立の目的や投資対象イメージをしっかりと議論するのは難しいかもしれない。そのような場合は、最初から完成型を目指すのではなく、まずは暫定的に目的と投資対象イメージを設定し、実際の投資案件の検討を行いながら、徐々にブラッシュアップしていくといったアプローチも有効である。

CVCファンドの狙い(2008年の米国での調査)図表3:CVCファンドの狙い(2008年の米国での調査)

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