CVCファンドのメリット、デメリット―「事業シナジー創出」を実現する“5つの視点”

第7回:M&Aインサイト

[公開日]

[著] 青木 義則 [提供元] M&A Online編集部 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] 事業開発 企業戦略 M&A コーポレート・ベンチャー・ファンド

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5.マーケットサイクルを意識できているか

 ベンチャー企業への投資は、基本的には未公開企業への投資である。ここで留意して頂きたいことは、未公開企業の株価も、マーケットの状況に応じて変動するということである。端的に言うと、日経平均株価が上昇してマーケットが過熱しているときは、ベンチャー企業の株価も割高となっており、日経平均株価が低迷しているときは、ベンチャー企業の株価も割安となっていると考えてよい。

 具体的にいうと、1989年12月29日に日経平均の最高値を記録した後、大きく低迷。その後、2000年にITバブルでピークを付け、その後低迷。次のピークは2007年で、その後はサブプライムショック・リーマンショックで大きく低迷。現在は、2012年末から始まったアベノミクス相場で上昇を続けている。このように、7~10年程度のサイクルでアップダウンを繰り返しており、ベンチャー企業の株価も、その影響を大きく受けている。

 純粋に投資目線で考えるのであれば、市況が低迷している時期に投資を行い、市況が回復したタイミングで売却(EXIT)すればよいのである。ベンチャーキャピタルが運用するファンドは、米国では、ワインになぞらえて「ビンテージ」という言い方をすることがある。つまり、「1997年物」は1997年に設立されたファンドで、「2010年物」であれば2010年設立という意味である。そして、ファンドのパフォーマンスがビンテージよって大きくばらついているのも事実である。株式市場が低迷した時期に設立されたファンドはパフォーマンスが高い傾向にあり(市況低迷で株価が安い時期に投資をし、市況が回復して株価が高くなったタイミングで売却できる)、好況時に設立されたファンドは苦戦するものが多い(株価が高い時期に投資を行い、売却したいタイミングには市況が悪化してEXITに苦労する)。

 しかし、CVCファンドの主目的は、事業シナジーの追求である。株式市場の状況に左右されるのは、本来は望ましいことではない。ここで申し上げたいのは、株式市場の状況に過度に左右されるのは良くないが、一方で、市況を完全に無視するのもリスクがあるということである。

 一般論として言えば、株式市場が過熱している状況では、新規投資は抑え目にした方が良いし、低迷している状況であればむしろチャンスと考えるべきであろう。ただし、市況が過熱している状況でも、事業シナジーの観点から投資を検討すべきこともあるであろう。その場合に重要なのは、ベンチャー企業の株価も過熱気味であるという現実を認識したうえで、それでも本当に投資する価値があるのかをしっかりと吟味した上で判断する必要があるということである。過度に市場に左右されず、かといって市況を無視することもなく、むしろ市況を上手く活用するくらいのスタンスで、事業側のニーズとのバランスを取ってCVCファンドを運用していくことが理想的である。

3. おわりに

 本稿では、筆者のこれまでの経験に基づき、CVCファンドを運用していく上で押さえておくべき視点について説明した。筆者は、大企業によるベンチャー企業への出資・買収による新規事業育成・既存のコア事業強化は有効な手段であると同時に、日本経済の活性化を促す重要な活動であると考えており、今後ますます盛んになって欲しいと願っている。

 一方で、まだまだCVCファンド運用を手探りで行っていたり、CVCファンドの設立に踏み切れずに躊躇していたりといった大企業も多いと感じている。このような取り組みを活性化するためには、先行企業による成功事例の積み重ねと、その運営ノウハウの蓄積・伝搬によって国内企業の知見を深めていくことが有益であると考えている。本稿が、大企業によるCVCファンドの成功事例を生み出す上で、その一助となれば幸いである。

(出典:プライスウォーターハウスクーパース マーバルパートナーズ株式会社 コーポレートサイト 「CVCファンドを活用した事業シナジー創出で押さえておくべき5つの視点」)

青木 義則(あおき・よしのり)略歴

青木 義則PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
IBM東京基礎研究所でソフトウェア技術の研究開発に従事。
その後、外資系戦略コンサルティングファーム、独立系投資会社を経て、プライスウォーターハウスクーパース株式会社に入社(現PwCアドバイザリー合同会社)。
M&A戦略、事業戦略、成長戦略、新規事業、コーポレートベンチャリング、オペレーション改革、R&D改革、企業再生など幅広い経験と実績を持つ。

本記事は、M&A Onlineに掲載された記事を再編集して掲載しております。

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