SAPと「デザイン・シンキング」の関係とは
SAPといえばERP(基幹系情報システム)のデファクト・スタンダート企業。エンタープライズ(企業向けITシステム)の世界の代表的存在だ。
しかしSAPが、「デザイン思考」(SAPでは「デザイン・シンキング」)の世界で先行者の企業であることは、日本ではあまり知られてこなかった。
デザイン思考というと、最近では多くのIT系企業やコンサルティング会社も重視している。トレンドとして珍しくはないかもしれない。しかしSAPの場合、このトレンドの源流に近い企業ともいえるだろう。
2018年3月15日におこなわれた発表で、SAP Labsのサム・イエン氏は、SAPとシリコンバレーのつながりについて、以下のように解説した。
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SAPの創始者の一人、ハッソ・プラットナーがIDEOのトム・ケリーなどと一緒に創設したのが、デザイン思考やイノベーションの拠点であるスタンフォード大学の「d.school」であること。
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ERPの世界にとどまらず、「SAP HANA」で、オラクルやIBMが君臨していたデータベースの世界に破壊的イノベーションをしかけたこと。
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大学や研究機関との連携「SAPユニバーシティ・アライアンス」や、「SAPイノベーションセンター・ネットワーク」、ベンチャーキャピタルの「SAPPHIRE Ventures」を始め、シリコンバレーに根付いた独自のエコシステムを形成していること。
「SAP HANA」とはインメモリという新しいテクノロジーを使ったデータベース製品。経営から退いたハッソの研究が元になっている。当初はSAPがデータベース市場に参入することに、疑問視する声もあった。しかし今ではSAPのERPの基盤として定着している。また最近では、「SAP Leonardo」というAI、IoT、機械学習などを統合したシステムも提供している。
そのSAPがシリコンバレーで展開してきた「Business Innovators Network」というコミュニティ組織の日本版を開始する。
IoTプラットフォーム「LANDLOG」などが参画
SAPジャパンの内田会長は「エンドユーザーの側にたって発見と解決をおこなっていく、課題をデザインシンキングのプロセスで見つけることが狙いだ」と語った。日本版の「Business Innovators Network」については以下のような団体、企業が参加の意を示している。
なかでも、「LANDLOG」(ランドログ)は、コマツの建設業のデータ活用を元に発展した、オープンなIoTプラットフォーム。日本の産業プラットフォームとしては代表的な存在だといえる。
コマツ執行役員の四家千佳史氏は「従来IT化が遅れていた建設現場の世界をデジタル化し、LANDLOGというプラットフォームを立ち上げ、2年間蓄積したデータをオープンにした」と語り、SAPの貢献を強調した。
また、SAPの大我猛氏は、日本版の「Business Innovators Network」のコンセプトを以下のように紹介した。
- Creativity(創造性) ☓ Execution(実行)によるイノベーションを目指す
- VC/アクセラレーター、アカデミア、スタートアップ、変革を志向する企業などのオープンなコミュニティ
- SAP自身の変革を通じて得られた実践的な気づきを還元する
「出島」としてのイノベーション組織
SAPの新規事業の作り方として「出島」戦略がある。
「従来の組織とは別に切り離したエンティティとし、経営トップのコミットを得て成長させ、組織にとりこんでいく」(大我氏)
ハッソが、経営を退いた後に大学教授として学生たちと研究を行い、その成果を「SAP HANA」として事業に還元していったのも、こうした考え方によるものだ。
「Business Innovators Network」ではSAPのこれまでの成果を、パッケージ化して提供していくという。
ドイツ企業でありながら、シリコンバレーのカルチャーを取り込み、デザイン思考とイノベーション理論で変革を実現したSAPが、今後どのようなコミュニティ活動をおこなっていくかが要注目だ。