AirJapanが描いた「第3の翼」という経営戦略
基調講演に登壇したのは、全日本空輸(ANA)でのキャリアを経て、現在はAirJapanで代表取締役社長を務める峯口秀喜氏。同氏は1990年にANAへ入社し、整備部門でキャリアをスタート。2006年からはANA総合研究所にて新規事業開発を牽引し、2011年から10年間、ANAおよびANAホールディングスの経営企画部門に在籍し、コロナ禍においては構造改革プランの策定にも携わった。
峯口氏がこれまでのキャリアで原点としているのは、ANA総合研究所で始めた地域活性化事業であり、山形県鶴岡市などとのプロジェクトでの経験だ。当時、インバウンド政策が「2,000万人時代」として掲げられていた。地方自治体の多くがインバウンド観光の成長に懐疑的だったが、前向きに取り組む自治体と連携することがANAグループの未来に不可欠だと感じていた。
そして、こうした取り組みを続けるなか、「オンリーワンの価値」「物語性のある体験」、そして「それを牽引する人々」が揃った地方自治体でなければ、地方創生の成功は難しいと確信した。

そんな峯口氏が率いるAirJapanは2000年以降、成田・羽田を拠点にANAの国際線を補完する役割を担ってきたが、2017年からは「第3の選択肢」としての新たな経営モデルの構想を開始した。それまでの航空業界においては、2つの選択肢が経営モデルとして存在。ローコストキャリア(LCC)は単価を抑え、座席数を最大化して収益を確保する一方、フルサービスキャリア(FSC)は座席の快適性や付加価値サービスで単価を高めている。AirJapanは、その中間に位置する「お手頃価格モデル」としての事業を目指したのだ。

この戦略の背景には、インバウンド市場が今後の日本を支える産業になりうるという期待が、当時から存在していた。コロナ禍を経て、その期待は現実のものとなる。特に需要拡大が見込まれたアジアからの観光客層をメインターゲットとし、新ブランドが立ち上がったのだ。峯口氏は構想段階から携わり、実行フェーズに合わせて自ら社長に就任した。

現在、AirJapanでは機体にはボーイング787型機を導入。ANAの場合、同じ機体で3クラス制では184席、2クラス制でも240席程度のところ、AirJapanでは全座席をエコノミーとすることで324席を確保する。一方で、FSC並みの座席間隔や深いリクライニング、タブレットスタンドなどを備え、客室乗務員はANAと同品質のサービスを提供するなど、手頃な価格と快適性を両立している。
価格面では、ギックスのレベニューマネジメント支援[1]により需要に応じた価格設定を行い、1万円台からの柔軟な運賃展開を可能にしている。一方、バンコク線やシンガポール線で片道8,000円、ソウル線で5,000円といった定額の子ども料金も導入することで、ターゲットであるレジャー層や家族旅行の需要に応えている。
“隠れた価値”を持つ地域との共創を戦略的に行う
加えて、機内サービスでは「日本らしさ」へのこだわりを徹底。機内では島根県の鯛茶漬け、秋田県の稲庭うどん、北海道の牛すじカレー、川越のクラフトビール、そして新潟県津南町の雪下にんじんジュースなど、各地の名品を提供している。さらに、客室乗務員が自ら企画、出演、撮影したオリジナル動画を機内上映し、日本の地域の魅力を紹介。「機内で出会う地域の物語」が、次の旅先を選ぶきっかけになる体験を目指しているという。

現在はANAブランドとの“二刀流”の体制をとり、ANA便で週140便、AirJapan便で週38便を運航。2025年度末までに3機体制を整える計画だ。
コロナ禍以降のAirJapanの挑戦は、航空業界の再編成と地域活性化の双方に通じる大きな布石とも位置づけられる。
[1]株式会社ギックス『ギックス、「レベニューマネジメント高度化伴走支援」サービスの提供開始 〜ANAグループの新ブランド「AirJapan」との取り組み開始〜』(2024.10.29)