ガートナージャパン(以下、Gartner)は、テクノロジ人材の将来に関する最新の展望を発表した。
エンジニアに求められるスキルや役割は、歴史的な転換の時を迎えている。これからのエンジニアは、クリエーター的エンジニアとなり、テクノロジを駆使することで企業ビジネスそのものを革新し、新たな成長につなげるための推進力となるという。実際に米国や欧州のトップ企業は、10年前からエンジニアリング・カンパニーになっており、ハイパースケーラーやAIといったテクノロジを駆使することで、テクノロジ/データ駆動型ビジネスを実現しつつあるとしている。
ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの亦賀忠明氏は次のように述べている。
「こうしたトレンドの変化は、ここ10年で起こったことです。テクノロジの飛躍的な進化により、エンジニアの役割は、スーパーパワー(想像を絶するテクノロジ)を駆使して産業革命を起こすことに変わりつつあります。テクノロジがかつてないインパクトをもたらそうとしていることは、たとえばこの1年の生成AIの進化からも認識・理解できます。これは始まりであり、これからが本番です。すべての企業は、デジタルによる産業革命という、かつてない時代(New World)が到来すると捉え、スーパーパワーを駆使できるテクノロジ人材を創っていく必要があります」
企業としてテクノロジ・リテラシーを高めることが重要
新しいテクノロジを試行的に導入する際に、よく「概念実証(POC)」という言葉が使われる。POCは、テクノロジが使えるかどうかを評価するために行われることが一般的だが、昨今では、テクノロジそのものよりもむしろ人や組織の能力がPOCの成否に大きな影響をもたらすことが明確になりつつあるという。
亦賀氏は次のように述べている。
「『POCによる試行導入を実施したが、それほど効果が出なかった』という話がよくありますが、それはテクノロジの問題というよりもむしろ人や組織のテクノロジへの向き合い方、スキル、マインドセット、スタイルの問題が大きいとみています。さらにはそれを生かせるデータや環境があるかどうかが大きなポイントとなります」
今後、こうした視点が欠けているPOCをこれ以上やっても無駄であるということに気付く人が増えていくとGartnerは予想。すなわち、テクノロジが使えるかどうかを評価するためのPOCは減少し、人がそのテクノロジを日常的に経験する機会としての試行導入へとフォーカスが移っていく。ユーザー企業において、POCを企画する人がテクノロジに明るい人であることはそれほど多くない。企画自体をベンダーに「丸投げ」してその試行もベンダーにやってもらうケースも多くみられる。そうしたやり方でのPOCは、「やった感」は出せるものの、お金と時間の無駄となるケースが一般的だとしている。
これからは、ユーザー企業でテクノロジの導入を企画し、推進する人としては、テクノロジに触らないで企画を行う手配師的な人ではなく、好奇心指数(CQ)が高く、テクノロジを自ら経験する人やテクノロジの勘所を押さえられる人が求められる。ベースとしてのテクノロジ・リテラシーを高めている企業はテクノロジの勘所が働くため、評価が目的のテクノロジの試行導入はうまく機能するという。
一方で、テクノロジ・リテラシーが低い企業では、テクノロジを「自分で運転」しようとしないため、いつまでも何も導入できない状況が続く。仮にベンダーに丸投げして、POCを行ったとしても、適切な評価はもとより、ビジネス・インパクトを生み出せずに終わる可能性が今後も継続することになるとしている。
2027年までに、日本企業の60%は、テクノロジの試行ではテクノロジが使えるのかではなく人材が使えるかが試されていると理解し、POCという言葉を廃止すると同社はみている。
日本企業においては、担当者にはクラウドやAIなどの認定資格の取得を推奨するケースが増えている。これは良い傾向ではあるが、一方、上司が何も勉強しないケースは今でも多くみられるとのこと。実際に、部下にAIで成果を出すように要求するだけで、自分は「できるのか」「もうかるのか」といった言動を繰り返す例が散見されている。しかしながら、Gartnerでは日本企業の役員が、自ら「G検定」を受ける動きが一部で出始めていることも確認しているという。
亦賀氏は次のように述べている。
「新しいテクノロジを使って新たなビジネス・インパクトを生み出し、高みを目指すには、リテラシーやスキルの底上げが重要になります。それには、IT担当者だけでなく、ビジネス/事業部門の業務担当者も、日頃からテクノロジを経験できる環境を整える必要があります。そして、担当者レベルだけでなく、上司や役員も含め、自らリテラシーやスキルを高めることが必要です。さもないと、上司や役員は、現場でやっていることを評価もできず、また適切な指示もできません。さらに、現場のメンバーは常に上司や役員にいろいろと説明をする必要があり、そのコストと時間は膨大なものになっています。このような状況を改善するためにも、日本企業は、全体として学習する組織への転換が求められます。学習する組織とそうでない組織では、リテラシーやスキル、マインドセット、スタイルに圧倒的な開きが生じます。学習しない組織では、良い人材が獲得できなくなり、また良い人材から流出していきます」
今後、企業は、学習する上司、学習する組織を奨励していくようになる。ITリーダーを例に挙げると、ハイパースケーラーやAIなどの認定資格の取得を担当者のみならず、リーダーや役員にも求められるようになるという。Gartnerは、2027年までに、日本企業の70%で、ハイパースケーラーやAIの認定資格取得がITリーダーになるための必須要件となるとみている。
亦賀氏は次のように補足している。
「既に、AI共生時代が始まっています。これから2030年に向けて現在の生成AIはAGI(汎用人工知能)や超知性へと進化する可能性が高まっています。AIのようなテクノロジに取って代わられる人になるのか、それともテクノロジを使いこなす人になるのかがすべての人に問われ始めています。それには『人間力』を高めることが重要なポイントになります。人間力を高めるためには自分を含めた『人』を大事にする『People Centric』を最優先の行動原理とすること、新たな時代に対応できる専門的な能力の獲得に加え、STEAM(Science, Technology, Engineering, Arts, Mathematics)に代表されるリベラルアーツを学び、教養的な土台を身に着けることも一つの有効な手段になるでしょう」