〈みずほ〉が量子技術に注力するビジネス的な“必然性”
寺部雅能氏(以下、寺部):最初に、宇野さんの現在の業務内容と、量子コンピュータの世界に入られた経緯を教えていただけますか。
宇野隼平氏(以下、宇野):みずほリサーチ&テクノロジーズのサイエンスソリューション部 デジタルエンジニアリングチームで課長を務めています。私の課では、原子や電子といったミクロな世界の物理法則、すなわち「量子の力」をビジネスの軸としています。
具体的には、次世代の計算基盤である量子コンピュータの活用や、物質の性質を解き明かす微細な世界のシミュレーション技術を使って、企業や研究機関の皆様の課題解決を支援しています。量子コンピュータについては、私たちの主戦場である金融分野での活用を先行させつつ、材料開発や創薬といった分野への展開も進めています。
私自身、元々は素粒子という究極のミクロ世界を探求する理論物理学の研究を行っていました。その知見を活かし、〈みずほ〉ではまず原子力分野のシミュレーション研究からキャリアをスタートしました。
大きな転機となったのは、慶應義塾大学との産学連携プロジェクトへの参加です。伊藤公平塾長から「量子コンピュータはまだ“赤ちゃん”です。一緒に育てていきましょう」と声をかけていただき、この未知なる分野に全身で飛び込む覚悟を決めました。

デジタルエンジニアリングチーム 課長 宇野隼平氏
寺部:量子技術の研究開発は長期的な取り組みが前提となります。みずほフィナンシャルグループとして本格的に着手されたのは、ビジネス的な狙いがあったからなのでしょうか。
宇野:おっしゃるとおりです。計算技術をいかに活用するかは、金融業界において極めて重要なテーマです。歴史的に見ても、計算力を有する企業が市場において優位に立ってきた経緯があります。量子コンピュータも、将来の競争で勝ち抜くために不可欠な技術になると捉えています。
寺部:まさに「計算力を制する者が金融を制する」ということですね。

宇野:そうですね。金融市場に溢れる膨大なデータから、他社に先んじて「最適解」を導き出せるか。そのスピードと精度こそが、金融機関の競争力の源泉です。その優劣を決定づけるのがまさに計算力であり、計算力が競争力と直結しています。
1960年代のメインフレーム導入に始まり、70年代にはオンライン勘定系が稼働するなど、金融業界は常に最先端の情報処理技術とともに発展してきました。量子コンピュータは計算の新たなパラダイムシフトであり、今後は、量子コンピュータをどう使いこなすかが、金融機関の未来を左右すると考えています。